柔らかい絵とソーセージ

龍鳥

柔らかい絵とソーセージ


 私の好きな人は、ソーセージです。


 フランクフルター、ボックウルスト、ヴァイスウルスト……名前は知らないけど、どれも食べたことはありません。


 女の子、年頃の高校生だから色んな肉を食べると太りそうなので、食べるのが怖いですからね。それに、ソーセージは詳しくないし。



 「うーん、今日も良いソーセージができた」



 あっ、でも絵を描くソーセージなら得意ですよ。詳しくはわからないですけど、超自然派?という描き方で本物のみたいなソーセージを描けるんですよ。……ぽつりと呟いても、病室にいる私は1人だけ絵を描いてる姿は、なんとも虚しい。



 私の好きな人は、ソーセージです。


 度々と言いますが、好きな人は異性で男性です。同性愛者じゃありません。ソーセージです。いや、別にソーセージの形をしてるわけでは……いや、ソーセージか。



 「今日も美味しく描けましたよ、ソーセージさん」



 私が絵画の傑作を完成しても、彼は何一つと答えくれません。折角、病院の退室時間がギリギリになるまで居たのに、本当に失礼な人ですね。


 夕焼けに染まる病室は、死後の世界から繋がる蓋を開ける火の光りだと、私は思うのです。今日は、なんだか怖くて帰りたくない。


 そう思い、携帯を取り出して親に『友達の家に泊まる』という典型的な嘘のメールで、今日はソーセージと泊まることにします。ふふっ、個室だから看護婦にバレはしないですよ。



 私の好きな人は、ソーセージです。



 ベットの周りには、私が描いていた超自然派の結晶と化した絵が、ずらりとソーセージを囲む様に置いています。

 そして、今夜。地獄の蓋は開かれた暗闇に染まった病室に、灯りもない状態で私は絵を描くのを引退しようと思います。


 彼はもう、ソーセージとしての役目を終えるからです。


 

 私が描く絵は、ソーセージ以外は壊滅的に下手なのです。実は、美術部でもないし文系の部活にも入ってない、無所属の人間なのです。


 ですから、絵の描き方なんてソーセージ以外は素人だし、詳しくはありません。実際に、私の自画像を鏡を見て描いたら、棒人間になりました。……製作するのに1週間もかけたのに、あれはショックでした。



 「今夜で、絵を描くのを終わりにします。だから、もう少し待っていてください」



 私の好きな人は、もうすぐソーセージじゃなくなります。



 原因は、わかりません。ソーセージが目を覚ますことなんて、あり得ませんからね。当然ですから。病室に横たわるソーセージは、息もしてないし、こんがりと焼き上がった状態です。



 でもね、彼は地獄の炎から私を救ってくれた命の恩人の、世界に一つだけのカッコいいソーセージなのです。焼け焦げになっても、焦げそうになった私を救ってくれたヒーローです。


 そんな愛する者の好きなのが、ソーセージ。それしか知りません。


 だから、彼が別の世界に行っても、ソーセージがたらふく食べれるように、私は世界中のソーセージを、いや、全種類のソーセージを描いているのです。



 そして、今夜が最後のソーセージ。

 もし、この筆を描き終えれば、ソーセージは永遠に描けなくなってしまう。そんなの嫌だけど……それでも、私は前に進めなければならない。


 だって、愛の力だけでも、こんなにソーセージを柔らかくて美味しいに描くことができるのですもん。



 そう思慮を感じてる時に、もうソーセージが完成しようとしている。



 嫌だなあ……もう、ソーセージとお別れなんて。だから……最後に私は、彼の大好きなソーセージの横に、小さい棒人間を付け加えて置きました。

 うわあ、一気にソーセージが不味く見えるよ。でも、私にとってはこれが最高傑作です。



 絵が完成して、ベットの上の1番目立つ所に、私は最後の絵を置きました。彼は、本当に綺麗なソーセージです。描いた絵と一緒に寝ようと思ったけど、流石に看護婦に見つかるとヤバいので、静かに病室のドアを開けて退散します。ソーセージだらけの絵画を置かれた病室に、私は自然と泣きそうになりましたが、必死に我慢しました。



 「バイバイ、大好きなソーセージさん」




 私の好きな人は、ソーセージでした。


 私の愛に包まれた、ソーセージの絵と一緒に。

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柔らかい絵とソーセージ 龍鳥 @RyuChou

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