いつもと違う道を往く
それからは、雨の日以外は毎日別の図書館へ通う様になった。
それは、中央図書館だったり、また別の図書館だったりしたが、いつもの(日向さんがいる)図書館に行くことはなかった。
そして、流石にあれ以来ラーメンを食べることはないが、帰り道には夜空を見上げる様になった。
正座には詳しくなかったが、夏の大三角ぐらいは見極めることができた。
月も丸みを増してきて、日に日に星空が薄くなってきているのがわかる。眩しい光があると、他の光は霞んでいく。そう思うとすこし切なくなった。
一週間程経ったある日に、学生の数が明らかに多くなっていることに気がついた。
カレンダーを見ると夏休みかと納得した。
開館直後に来るので席が空いていないということはないが、聞こえてくる話し声は正直鬱陶しい。
その日は結局数時間を過ごしただけで、後の時間は自転車でその辺をプラプラしながら時間を潰した。
昔の自転車で通った道を通ってみたりもした。
懐かしさにはしゃぐ気持ちもあったが、馴染みだった店が潰れて別の店ができているのを見ると、寂しさが勝ってしまい結局別の道に逃げた。
退屈な時にどうやって時間を潰せばいいのか、忘れてしまったようだ。
学生の頃は、よく映画やドラマを見ていた気がする。
でも、今の私にはそういうものを見たいとは思えなかった。
結局、最後にやってきたのはいつもの図書館だった。
来てみると、むしろなんで今まで避けていたんたろうという気持ちすら湧いてきたが、中にはやはり学生が多く、中央図書館ほど出なかったが雑音があり、集中して読書をしようとは思えなかった。
しかし、ずっと自転車を漕いていたので椅子に座りたかった。
空席を探していると、見知った後ろ姿が見えた。
「日向さんだ」
心の中で呟いてみたが、当たり前ながらこちらには気がついていない様だった。
試しに、日向さんの向かいの席に座ってみたが、本に集中しているみたいで全く気がついてくれない。
そもそも、夏休みで忙しいだろうに司書がこんなところで本を読んでて良いのだろうか。注意してやろうと思ったが、それも余計なお節介かと思い観察を続けた。
前にも思ったが、容姿は整っている様に思う。
出会った時より少し伸びた髪は後ろで結いていて、白い綺麗なうなじが見ていて飽きないし、本の内容が面白いのか時々笑うときの笑窪が可愛らしい。
身長は座高からして、私よりも少し高いくらだ。
冷やし中華を食べに行った時も、少し見上げるくらいだった気がする。
手を握ったらどんな反応をするんだろう。
ん?手を握ったら?
なんでそんなことを思ったんだろうと考えた時、既視感の正体がわかった。
「アカネさんに似てる」
思わず声に出てしまったが、当の日向さんには聞こえなかったようだ。
胸を撫で下ろして冷静に考えてみたが、アカネさんは確か東京在住だったしじゃなかったらあんなにライブに来れなかったはずだし、アカネさんはこんなに清楚系では決してない。
そう思いつつも、正面に居座っていることに耐えられずに席を移動した。
ギリギリ日向さんを視界に入れられる場所に座ると、本を読むふりをしながら日向さんを盗み見た。
まるでストーカーみたいだが、もやもやを解消しないと読書に集中できないので仕方がない。
結局閉館の時刻まで粘ったが、日向さんはずっと同じ姿勢のまま本を読んでいるだけで、途中トイレのために席を立つくらいしか行動を見せなかった。
にしても、司書の癖に本当に読書しかしていない。こんな仕事で良いのであれば私が率先してやりたいくらいだ。そもそも本当に司書なのだろうか。
スーツを着てはいるが、よく見ると他の館員はエプロンをしているし、ネームプレートをぶら下げているが、日向さんはしていない。
むしろ今まで気が付かなかったのが不思議なくらい怪しい。
日向さんは、閉館時間に気がついたようで席を立ち本を戻していた。
私は、こっそり後をつけた。
スパイみたいで楽しいと思いながらも、バレないように本棚の影をうまく利用して隠れた。
日向さんは案の定、カウンターには向かわずにそのまま出口に歩いて行った。
そしてそのまま駐車場に停めてあったバイクに乗って、おそらく家であろうが何処かへ走り去ってしまった。
流石にバイク相手に自転車で後をつけようとは思わなかったが、一般的に考えて挨拶もせずに帰宅するのはおかしい。
日向さんは嘘をついている。
推理小説を読んだ影響か、こういう謎に何か裏があるのではと勘繰ってしまう。
現実は小説より奇なりという言葉もあることだし、もう少し調査をしてみる価値はありそうだなと思った。
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