青空の向こうにも星は輝く

 私は仕事を辞めて地元に帰ることにした。

 親からは「だからやめとけっていたのに」なんて言われ腹が立ったが、何も言い返すことはできなかった。


 しかし、私はもう生きる意味を失ってしまった。

 働く気力も起きずに実家でニート生活を送る日々。他の推しが見つかればと思い、色んなアイドルのライブに参加したが、浮気してるみたいで嫌だったし、きらりんの時のように胸を打たれるようなドキドキに出会うことはなかった。


 きらりんともう会えないのなら、いっそ死のうかなと、本気で思ったこともあったけど、もしかしたら、きらりんが再びステージに戻ってくるかも。なんて事を考えてしまうとまだ死にたくないと思ってしまう。


 今でも、cascadeのホームページやきらりんのSNSのアカウントを毎日チェックしているが、更新されることはなかった。


 最初のうちは、親も私のことを気遣ってくれたけど、最近ではいつになったら働くのと顔を合わせるたびに嫌味を言われる様になった。


 私は家にも居場所を失い、昼間は公園や川原で時間を潰すようになった。就活していることをアピールするためにリクルートスーツを着ることもあった。きらりんが居なくなって、無味無臭な毎日が帰って来た。働かなくなった分悪化してるけど。


 そんなある日、気分転換に図書館に寄ってみると、1人の女性が目に入る。短くなったけどウェーブのかかった黒髪、何にも関心を示さないような冷たくて、だけど綺麗な瞳。


 間違いない、きらりんだ。


 化粧はしてないし少しやつれたように見えるけど、私が見間違えるはずがない。どうする?声をかける?

 心臓が早鐘はやがねを打つ。一旦落ち着こうと思い、彼女の近くの席に座り様子を見ることにする。


 彼女は本に集中しているようで、ページを捲る指と文字を追う目だけが動いていた。私はそんな彼女に見惚れていた。


 気がつくと、夜のとばりは降り始めうるさかった蝉の鳴き声も、鈴虫や蛙の合唱へと変わっていた。


 営業時間終了のアナウンスが流れていたけど、彼女はそれに気づく様子もなく読書にふけていた。


 私は声を掛けるチャンスだと思い、彼女の前に移動する。


「お客様、誠に申し訳ございませんが本日は閉館のお時間となります。」


 私は何を言っているのだろう。これじゃあ私が図書館の館員みたいじゃないか。


「あ、すいません。すぐに出ます。」


 この声、やっぱりきらりんだ。


「あ、あの……」


 私は聞きたかった。どうして、アイドルを辞めたのか。もう戻るつもりはないのか。今は何をしているのか。色んな言葉や感情の波が、喉の奥から洪水のように溢れそうになる。


「なんですか。」


 あの瞳に射止められる。私は怖くなる。ここでそんなことを聞いたらもう二度と会えないような気がして。


「本、借りられて行かないんですか。

あ、すいません。真剣に読まれていたもので、つい。」


「いえ、明日もまた来ますので。」


「そうですか。またのご来館お待ちしております。」


 館員のフリをしてどうにかやり過ごす。

 リクルートスーツが久し振りに役に立った。お母さんありがとう。


 こうして、私はきらりんとの再会を果たしたのだった。


 これは、私の生きがいを取り戻すお話。

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