第32話 対決宇宙海賊5
俺はトリニィやカテリアを作った科学者の男にボコられてしまった。ヤツにいいように言い負かされて無様な姿を晒した。
鼻で笑い見下す相手に俺は悔しかった。
そのときだポーンという音が部屋に響くとガサガサという音が聞こえきた。どうやら艦内放送のスピーカーに電源が入ったようだ。
『クリフ! クリフ、そこで何をしているのですか?』
声の主はテレッサだ。
「テレッサか……」
『監視カメラでそちらの状況は見ていました。あなたはなんのためにここにいるのですか?』
恥ずかしいところを見られたようだ。もっともそんなことは今さらだが。だが『なんのためにこかにいるのか?』だと……そうだ決まっている。トリニィとラプルを助けるためだ。こんなところでウダウダやっている暇などなかったのだ。俺は折れかけた心に再び火を灯す。
『思い出したようですね。さてドクター……先程は随分と意気揚々と能弁を垂れてくれたようですね』
「ああん?」ドクターは不服そうな顔をしてテレッサの声に耳を傾けた。
『頭の悪いクリフを言い負かしてさぞ気分がいいでしょう』
そう言われて今度は俺が不服そうな顔になる。余計なこと言うな。
『ですがドクター、確かアカデミーでもあなたは同じ詭弁を垂れて他の学者たちからフルボッコくらい、言い返せませんでしたよね。その後、あなたのケツを蹴飛ばすようにアカデミーから追放された……』
「だ、だまれ……」ドクターの顔から笑みは消え、代わりに茹で蛸のように赤くなってゆく。どうやらテレッサの言うことは事実なのだろう。
だがテレッサはなぜそんなことを知っているのか、銀河ネットワークから情報を検索して引き出すにはいささか早すぎる。膨大な情報の渦である銀河ネットワークでこれほど早く検索できるシステムはない。まさか最初っから知っていたのか?
『人類種が生きてゆくためには命を喰らうしか方法はありません。どれほど知能や倫理観を身につけたとしても食物連鎖の枷から逃れられない宿命にあります。それは命を繋ぐための致し方のないこと。ですがドクターあなたの研究はただ欲望を満たすためだけの代物でしかない。それを同列考えるなどとアカデミーから指摘を受けましたよね』
ドクターは昔を思い出したのか、ぶるぶると震えて怒りを露にしている。
『クリフ、あなたは彼女たちをどう思っていますか? ただの愛情を振り撒く玩具ですか?』
「違う! 俺は彼女たちに幸せになって欲しかっただけだ。生まれがなんであろうと、遺伝子操作さていようとそんなことは関係ない! あいつらと共に笑っていたかったんだ。ずっと! 忌の際までずっと幸福な人生だったと感じていて欲しいんだ!!」
『そうですね。いい答えですクリフ。さてドクター、あなたは愛情をどうのと言ってましたが、彼女たちが年老いたり、飽きられたりした後、どんな運命をたどったかご存知ですよね。主の愛情なしでは生きられなくなってしまったものが捨てられたその末路です』
ドクターの顔が青ざめてゆく。知ってる。彼は知っているんだ。悲惨な結末を辿ってゆくことを。知っていて幸せなれるなどと俺にあんな能弁を垂れたのか!
「黙れ! 黙れ! 黙れーッ!!」
テレッサ……やはり恐ろしいヤツ。恐らくドクターはアカデミーの一件が相当トラウマになっているようだ。それをほじくり返して再び叩きつけたのだ。
「どいつもこいつもワシの研究を愚弄しおって……もはや許さん!!」
「何が許さんだ、それはこっちのセリフだ!!」
俺はテレッサとドクターがやり合っている内に拾ったパラライザーガンをヤツに向けた。トリガーを引くとビューと音を立てて光線がドクターに当たった。
「ふごおぉぉぉぉー」
断末魔の声を上げて泡を吹きながら白目で体をピクピクとさせている。一応死んではいなさそうだ。
うわー……これ、人に当てるとこうなるのか……
この銃で人を撃ったのはこれが始めてだ。正直、怒りに身を任せて撃ったがスッキリなどしない。むしろ後味が悪い。だが同情などするもんか。
『クリフ』テレッサの声だ。
『トリニィたちはブリッジにいます。私たちもそちらへ向かいますので後で合流しましょう』
「わかった」
俺はモニターに向けて手を振ってこの部屋を後にした。だが……はて……俺は何か勢いに乗ってとんでもないことを口走ったような気がするが……ま、それは後で考えるとしよう。
◇◇◇◇◇
俺とリプルはエレベータの前に到着するが、このエレベータに乗るわけにはいかない。降りた先で銃口を向けられたら逃げ道がないからだ。したがって俺たちはその脇にある非常階段からラプルのいる上へと目指して階段を駆け上がる。
「待つのだクリフ」突然リプルから呼び止められる。
「どうした?」
「この上に偽者がいるのだぁ」
それはつまり宇宙海賊どものことである。
「わかるのか?」
俺の問いにリプルは頷いた。大した能力だ。だがどうする? 迂回する道なんて俺には分からない。正直今でもかなり適当に進んでいる。ふと目に留まった艦内の案内板によればこの上はブリッジのようなので避けて通れない。
俺はパラライザーガンを構えながらゆっくりと音を立てずに上ってゆく。海賊は階段の踊り場にある端末機で誰かと話をしているようだ。話終わると回線を切った瞬間、俺は踊り場に出て相手に引き金を引いた。
ビューッ。
素っ気ない音と共に黄色い閃光が海賊に命中した。海賊は中枢神経はマヒして数日間は動けないだろう。あのドクターを撃った事で俺の引き金は軽くなったような気がした。戦争とかしてる人もこうやって慣れてゆくのだなと妙な納得感を得たが正直慣れたくはなかった。
俺とリプルはその海賊の脇を通ってさらに上へと目指すが、先ほどから何か爆発音のようなものが聞こえる。船の壁づたいにそれは鳴り響いているようだ。
なんだろう? テレッサのヤツがまた艦砲射撃でもしたのだろうか?
そのようなことを考えつつも足を止めずに突き進むとリプルの指し示す方向が真横となった。どうやらここがブリッジなのだろう。
俺はそっと非常口のドアを開けた。顔半分だけ覗かせて通路の様子を伺う。するとドタバタと海賊の集団が走ってこちらに向かってくる。
「じょ冗談じゃねぇ、あんなのに付き合ってられるかぁ!」
「ありゃ幼女型ターミネータだ! 殺されるぅ!」
そんな言葉を吐きながらエレベーターのボタンを涙目で必死に叩いている。彼らの身に一体何がおきたというのだろうか。
『幼女型ターミネータ?』そんな言葉がしっくりくる奴を俺は一人しか知らない。
突如近くで爆発音が鳴り響いた。爆発がもっと近かったら俺の鼓膜は破れていたかも知れない。そのくらい近くだ。
「きーっ! キタぁーーーーーーーー!!」
海賊達は一斉に声を張り上げて俺のほうを見た。『やばい見られた』俺は背筋が凍り付いた思いでいたが、海賊たちは俺の事など眼中にないといった風でやってきたエレベーターに我先にと潜り込んだ。
「ふぅー」
連中とドンパチにならずに済んで俺は安堵した。撃ち合いになっていたら絶対に負ける自信があった。それだけははっきりしている。
「クリフ……まだこんなところにいたのですか?」
「クリフ!」
その幼女のような声はテレッサだ。カテリアの声も聞こえた。彼女たちがここにいるということは牢屋は片付いてもう追い付いたのか。
そして海賊どもが恐れていたのはやはり彼女かと、振り向いた俺の視線に入ったのは全身トゲトゲとなった歩く兵器庫とでも表現のしようがないテレッサの姿だ。バルカンにスマートガン、レールガン、アサルトブラスターにミサイルポッド、武装が無いのは顔ぐらい。
「な、なんなんだその姿は!」
「来る途中で武器庫がありましたので、ちょいとお借りしただけです」
その武装だけで何トンあるんだよ。海賊どもが恐れるわけだ。俺は一人で納得しているとテレッサは折角の武装を全部外してしまった。一斉にパージしたために床にゴトゴトと重そうな音を立てて武器が転がる。
「なんだ、外しちゃうのかよ」
「はい。この先の通路は狭いので逆に足かせとなりますので。それにトレニィ達はすぐそこです」
テレッサが指を指すのは先ほどの海賊たちが出てきたところだ。どうやらさっきの連中はブリッジ要員だったようだ。監視カメラのモニター越しにテレッサの化け物ぶりを見て意気消沈したに違いない。立場逆だった俺もそうなる。きっと……
「ん? すると今ブリッジに残っているのは……」
「はい恐らくこの船のボスでしょう。トリニィ達が人質になっている可能性があります」
「なんてこった」
トリニィとラプルを取り戻せばさっさとおさらばしようと思っていたのに結局ボス戦まで行くのかよ。とはいえ相手は都合よく少数になってくれた。人質を取られているがこれならきっと勝てる。こちらには元軍のテレッサもいるのだから勝てないわけがない。
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