第31話 対決宇宙海賊4

 リプルの導きによりどんどん奥へと進んでゆく。だがリプルはやれあっちだのこっちだのと時には遠回りをしているようだった。本当に大丈夫か?


 正直いってどこをどう動いたのか、もうよく分からない。うまく海賊たちと遭遇しなかったのは運が良かったのか? それとも思っていたより相手の数は少ない?


 俺は一際異質な雰囲気をもつ部屋の前にでた。部屋には内窓はなく壁のデザインが妙にメカニックだ。なぜかその壁には子供の落書きらしきものもある。


「リプル、どうだ? ここにラプルはいそうか?」


 俺はリプルに聞いてみたがリプルは困ったような顔で「うーん」と唸っただけでハッキリとは答えなかった。


 まぁ超能力ではないのだから、そうそう感じ取れるものではないのかも知れない。それに機械だらけの宇宙船の中では相手を感じ取るのが難しいのかも知れない。色々と理由は思いつく。


「いいや、取りあえず怪しいからここを探すから後ろに隠れていろ」


「わかったのだぁ」とリプルは元気よく返事をする。


 扉のセンサーをさわるとプシューと音を立てて開いた。俺はパラライザーガンを構えつつ中へと侵入する。が……


 俺はそこにあったものに驚愕した。


 部屋の辺り一面には人がすっぽり入れるほどの培養装置が並んでいる。ガラスの筒が斜めにずらーっとだ。その中にはまだ卵のようなものもあれば退治のようなものが入っている。


「い、生きているのか?」


 部屋の反対側にはもう少し成長した成体が並んでいた。その姿はほぼ人間ではあるが部分的に別の生物となっている。


 性別は男も女もあるが、どちらとも区別できないものまで存在する。さらに奥にはもう人間の形をしていないものまで……


 俺はあまりの衝撃に吐き気を覚えた。頭がクラクラとしてきて意識が飛びそうだ。


「こ、こんな……こんなもの人間のすることじゃない、悪魔の所業だ!!」


 トリニィやカテリアの大元であるご先祖様も、恐らくこようにして生まれたのかと思うと彼女たちは異質な存在なのだと認めざるをえない。


 だがそれと同時に怒りも込み上げてきた。俺のなかで今まで感じたことのないほどの憎悪が沸き起こる。


「こんなもの……こんなものあってたまるかッ!!」


 思わず声に出してしまう。今にも涙が出そうだった。


「だれじゃ、晩飯はこの調整が終わるまで待てといったじゃろが」


 突然奥の装置の影から声がする。やや枯れた男の声だ。俺は警戒しつつ影の主の元へと銃を構えながら近寄った。


 そこには白衣を着たダルマのような科学者らしき男がいる。多くのモニターの並ぶ操作盤とにらめっこしており、こちらを見ようともしない。状況から考えれば亜人を作っている科学者の可能性が高い。


「手を上げてこっちを向け!」


 俺は反撃されないように距離をおいて男に銃を向けた。問題なのはこの男は海賊なのかどうかだ。海賊なら容赦しない。だがもしかしたら海賊に連れ去られて強制的に働かさせているのかも知れない。


「あぁん?」


 科学者の男は振り向いてこっちを見た。だが彼の興味は銃を突きつけている俺よりリプルのほうに興味が沸いたらしく、づかづかと近寄って身をががめるとリプルをじっくりと見る。


「ほっ、懐かしいのぉラグーンタイプか。作ったのはかれこれ120年前じゃったかな? あ、いや160年じゃったか……」


 頭を掲げて記憶を探しているようだ。リプルは怖がって俺の足にしがみつき後ろに隠れてしまった。


 だがそれはそうとこの男、話の内容からして亜人を作ったのはこの男で間違いないようだ。一見人間種かと思われたがそれほど古くから研究をしているということは年齢的に人類種ではないようだ。


「お前が亜人を作ったのか、海賊どもに捕まったのか?」


「捕まった? 捕まった覚えなどないのぉ、スカウトはされたが?」


 間違いない、この男も海賊の一味だ。トリニィやカテリアを作ったのがこの男なら、懸念していたアレのことも知っているに違いない。


「教えろ! 姿形だけでなく強制的に相手を好きになるような遺伝子操作したのか?」


「ほほほ、そうとも。これこそワシが開発した世紀の発明じゃ!!」


 この男は悪びれるどころか自分の研究を自慢し始めた。だがテレッサの見立ては当たっていたということになる。俺はそのことに動揺を隠せなかった。


 テレッサの言うことには俺はある程度納得していた。してしまっていた。だがそれを認めたくない自分も同時にいたが、ここでその希望は打ち砕かれてしまった。


 トリニィやカテリアが俺を好きになってくれたのは好きになったからじゃない。遺伝子操作でそうなるよう仕組まれていただけだった……


 そのことに泣きそうになる俺を無視して、目の前の男は自慢を始める。


「人造キメラの開発などすでに廃れた技術じゃが、ワシはそこに心をコントロールする術を開発したのじゃ。これら作品はワシの研究成果の集大成なのじゃ、うわっはっはっはッ!」


 完全に自分に酔っている。何にが研究成果だ。こんな心をもてあそぶような研究が許されるはずなどないじゃないか!!


「ふざけるなッ!! 生きているんだぞ! 彼女たちの心は彼女たちのものだ、それを操作なぞ……お前は何様だッ!!」


「フン、貴様もこの研究成果の素晴らしさがわからんクズなフェミどもと同じ人種か……あやつらもワシの研究を認めないどころか糞虫扱いしおった……」


「あ、当たり前だろ、こんな人の心を偽るような研究が認められるわけがないだろ!」


「は? お前らがそれを言うのか? この商品買っているのはお前ら人類種じゃぞ、この研究を素晴らしいといって量産の話を持ちかけたのお前ら人類種じゃぞ」


「くッ」


 言い返せない。そうだこんなものを作って需要があるのは人類種が大半だろう。商品として売り出すにはリスキーな販売ルートを使うため高額となる。となると顧客は裕福層や全財産をはたいても欲しがるアブノーマル層だろう。


 営業マンの性なのかついつい顧客のことを考えてしまったが問題なのは人類種の欲望だ。むろん他の種族にも欲望はあるが、人類種は欲望に忠実というか負けやすいという印象を持たれている。俺はただの偏見だと願っていたが、このようなものを見せつけられてはその自信もなくなりそうだ。


「そ……だ、だからって加担していいものじゃないだろ!?」


 思わず認めてしまいそうな自分を押さえてささやかな抵抗を試みる。


「やれやれ、身勝手な人種じゃの……いいか貴様らが口にしている肉はどうやって作られている? 殺されるために繁殖されるんじゃぞ、それこそ酷いとは思わんのか? それに比べればワシの作ったこれらは主から寵愛され可愛がられるんじゃ。殺されるために生まされるもの、愛情を受ける人形、どちらが酷いのか明白じゃろ」


 ぐうの根もでない。


「貴様らのやっていることに比べれば真っ当な研究じゃ、お前らに非難される言われはない!」


「ち、違う!」


「違わん!」


「違う!」


 もはやその理由すら述べることのできなくなった俺は男の胸ぐらを掴んで気迫で否定するしかなかった。


「ふん! 理屈で負けたら暴力で相手を屈服させる気か? この野蛮人どもめ」


「うッ」


 突然、みぞおちに強烈な衝撃を喰らった。何が起きたのかと見てみれば男の拳が俺の腹に刺さっていた。


「うぐぐ」


 俺は男を掴んでいた手を離してしまうと、科学者の男はストレートパンチを繰り出し、俺はそれをかわすことができずにモロに顔面に喰らってしまう。


 足が床に着かず浮くと大きく吹き飛ばされた。床に叩きつけられたと同時に手にしていたパラライザーガンを落としてしまう。


 しまった、完全に相手を見くびっていた。背が小さくダルマのような体をしていたから、ケンカは弱いと思い込んでしまった。だが相手は人類種ではないのだ。見た目の姿に思い込みは厳禁だった。せっかく安全距離を確保していたのに自らの怒りで不意にしてしまった。


 科学者の男は「フン」と鼻で笑い俺を見下す。

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