第30話 対決宇宙海賊3
パラライザーガン。殺傷能力が無いとは言え、これを人に向けて撃つのはどうにもためらいがある。さっきのようにまた引き金が引けなかったらどうしようか……だが俺は頭を振ってそんな考えを追い出した。
撃たなきゃいけない、トリニィとラプルが危険なんだ。迷ってなどいられない。同じ過ちを繰り返すわけにはいかないんだ。
「中央のドアは開きませんので運転席側から出てください」
テレッサの案内で運転席から外へとでる。俺たちが侵入した海賊船の船内は少々薄暗い。エンジンを破壊したから電力供給が足りず、非常灯になっているのだろう。
「クリフ、状況が状況なので私にブラスターの使用許可をください」
ブラスターは殺傷能力の高い銃だ。これをテレッサに持たせているのはアンドロイドであれば的確に狙った位置への攻撃が可能となるためだ。致命傷にならないようにするには人間では難しいものがある。
もし人を殺してしまえば責任者である俺と社長と会社に罪が問われることとなってしまう。だが相手は躊躇なく人を殺してくるような連中だ責任がどうのなど言える状況ではない。
「わかった。承認する」
テレッサは俺からの承認を得るとスカートをめくり上げて、左足の太ももを晒した。太ももの左側がもっこりと膨らみ、伸びた人口皮膚がメリメリと引き裂かれる。見ていてあまり気持ちいいものではない。カバーが開ききると飛び出してきたブラスターを彼女は手にした。
「それではいきましょう」
テレッサは銃口を上に向けて扉のほうへと向かった。
トレーラーが飛び込んだところは資材搬入口のエアロックルームだ。トラックなども出入りするので部屋は大きい。右側には大きな巾の広いシャッターと扉がある。左側は外に繋がっているエレベーターがあるのでこちらは出口だ。となると右側にある扉が船内へと続く通路か部屋だろう。
「あたし達もいくぜぇ」
「はいなのだぁ」
カテリアとリプルもテレッサについていったので俺も慌てて追いかけた。
扉の入り口へとやってくるとテレッサから扉の前に立たないよう指摘される。開閉ボタンに触れて扉を開けると反応を確認しながら中の様子を伺う。
まるでスパイ映画の主人公になったような気分だ。
扉の中も暗い部屋となっており、人気のない事から中へと入ってゆく。侵入した部屋は車両置き場のようで、いくつかの車両が並べられて動かないようロックされていた。そしてその中にトリニィとラプルをさらった車があった。
「お、おい、この車、トリニィを拐っていったヤツ!」
「はい、この車両で間違いありません」
車内を窓越しに確認してみたが、誰も乗っていないので二人はすで船内のどこかに連れ去れたのだろう。酷いことをされていなければいいのだが……
俺たちは格納庫を後にして奥の扉へと向かった。こちらの扉も大きなシャッターと人用の扉がある。開けて中に入ればここも暗くて広い部屋となっている。左右には大小さまざまなコンテナがあり、どうやら倉庫のようだ。
コンテナは全てロックされており、ここにトリニィたちが捕らえられていることはないだろう。俺たちはさらに奥へと向かう。
今度は大型エレベーターシャフトとこれまでと同じ普通の扉が並んでいる。エレベーターは電源が落ちているようで操作盤のライトが全て消えていた。扉のほうを開けるとより一層暗くなっていた。
「誰かいます。警戒してください!」
とっさにテレッサが警告を発した。
慎重に部屋へと侵入するとすすり泣く声が聞こえてくる。目が徐々に暗さに慣れてきたので、目を凝らして見渡せばそこには無数のコンテナタイプの檻があり、中に誰か入っている。
すすり泣いているのは彼女たちのようだ。彼女? そう彼女だ。この星の人間に似せて作られた人造亜人たちだ。何人いるのだろうか100人? いや、もっといる。彼女たちは騙されて愛玩具として売られていくところだったのだ。
「くそう! 酷いことしやがる!!」
怒りを口にしたのはカテリアだ。彼女が怒るのも無理はない。海賊とはいえ俺の同族がこんなことをしでかしている。俺は彼女たちに申し訳ないと思った。すでに売られた娘のことも考えれば謝って済むような気はしない。
「その声はカテリア!? カテリアなの?」
どうやら捕まっている娘の中にカテリアの知り合いがいたようだ。
「その声、キラル? キラル!!」
カテリアは声のした方向へと走り出す。そして一つの牢屋の前でキラルなる人物を見つけたようだ。牢屋の中にはカテリアと同じドラゴ族の女の子が鎖をかまされて狭い牢屋に入れられていた。
「ああ、カテリアあなたも捕まったの? 聞いて、神のいう楽園なんて嘘だったのよ。あたし達騙されていたの。だから早く逃げて!」
「分かっているよキラル。だからあたしが助けに来たんだ」
カテリアは彼女を元気づけた。いつも勇ましい顔をしているがこの時ばかりは優しい顔を向けた。だがキラルは不安そうに俺の顔を見て怖がった。
彼女は俺が海賊の一味だと思ったようだ。同族だから仕方がないとはいえ心に刺さるものがある。カテリアは彼女の心境に気づいてフォローを入れる。
「ああ、クリフは奴らと違う。あたしたちの味方だよ。助けに来てくれたんだ」
「ほん……とうなの?」
彼女は半信半疑だ。そりゃあこんな酷い目に遭えばその気持ちもわかる。
「本当だ君たちを助けに来た」
何という正義者ヅラなのか自分自身でも呆れる。悪いのは俺の同族なのに。だがそれゆえ俺はますます海賊どもを許せなくなってきていた。連中に罪を償わせてやらないと気が済まなくなっていた。
「そうだトレニィ、ラプル! 二人はここにいないのか?」
俺は大きな声で二人の名を呼んだ。捕まったのなら彼女たちもこの牢屋に放り込まれている可能性が高い。だが周りからは二人の声は聞こえなかった。愕然とするそんな俺の服をリプルが引っ張る。
「ラプルとトレニィはここにはいないのだぁ」
「え? リプルは二人がどこにいるのか分かるのか?」
「分かるのだぁ。ラプルはトレニィと一緒。このずっと奥の上にいるのだぁ」
どういうことなのかと俺は混乱に陥りそうだった。リプルってもしかしてエスパーなのだろうか。だとしたらこれは凄いことになる。この世に超能力者というのは存在する。ただ人間種もしくは亜人で超能力者は非常に珍しい。
「クリフ、二人は一卵双生児なのでしょう。双子ならではの意思疎通が可能なだと思われます」
テレッサがご丁寧に解説してくれて超能力という俺の期待の路線は消え去った。とは言え、これはこれでほとんど超能力みたいなものだけど。しかしながら二人の行方を探して無造作にこの広い館内をさ迷うよりは遥かにマシなわけで、俺はリプルの能力に期待を寄せた。
「クリフ、先に行って下さい。私はカテリアと一緒に彼女たちを救出してから行きます」
俺のサポートアンドロイドなのに対象者ほったらかしかよ!
そう声にして言いたいけれども、それではカッコ悪すぎる。カテリアやリプルの前でそんな醜態を晒すわけにはいかない。それにカテリアではここの牢屋の鍵を開けることはできないだろうし、トリニィの救出も急がねばならない。
「わ、わかった……じゃやあリプル、案内を頼む。くれぐれも俺の前に出るなよ」
「わかったのだぁ」
俺は精一杯去勢を張ってこの部屋を後にした。
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