第20話 カテリア5
槍を突きつけてきた父親の前にカテリアが立ちはだかった。両手を広げて俺を庇うように。嬉しいけど……情けない。
「止めてよ、お父様! 儀式は……事故だったかも知れないけど……今は本当に好きなの!」
アレが事故だということは認めてるのか。その点は安堵したが何分『掟』がやっかいだ。『掟』は絶対らしくこればかりはどうにもならないらしい。だが後で知ったことだがこの『掟』には抜け道があるのだとか。
結婚前に俺が死ねばいいらしい……ひぃぃぃ!
「――いや……しかし……」父親は困惑した。
「クリフに手を出したらあたしが許さないからね!」
「だがそんなヒョロイ男を娘の婿などと認められぬ」
だよね……どこからどうみてもそう見えるよね。
「あら、クリフはあのキングボアをたった一人で一撃で倒したのよ」
「なぬ!?」
父親は目を丸くしてトレーラーから降ろしている最中の猪と俺を見比べた。いかにも信じられないといった顔をしているが、それは華奢な俺の体からでは当然だろう。父親のいうとおり俺は弱い。腕っぷしに自信などこれっぽっちもない。強かったのはパラライザーガンだ。そう思うと後ろめたい気がしてならならない。
「し、しかし、その男は種族が異なるようだぞ……子なぞ授かるのか?」
最もな疑問だ。父親が娘の幸せになって欲しいと願うのは当然だ。
「その点は問題ありません。スキャンした結果。あなた方もクリフと同様の遺伝構造を有しております。シュミレートした結果ではお二人の間に宿す子は人類側かドラゴ族側で生まれる確率99%です」
テレッサのマジな回答に俺はずっこけた。問題はそこじゃないだろと。そもそも救助が来たら俺たちはこの星から出てゆかなければならないし、彼女たちをつれてゆく気もない!
「お前、どっちの味方なんだよ!」
「私は客観的に事実を申し上げただけです」
テレッサが余計な説明をしてくれた。あのままちゃんとした子が生まれないと結論づけば俺はこの娘から解放されるかも知れなかったというのに。
父親はすっかり悩んでしまったようだ。自分の中の不安と娘の思いが天秤にかかって葛藤しているのだろう。
「こ、今宵はあの大物で宴となろう、その時に家族会議で決める」
俺はすぐにでもこの集落をでて目的地に行きたいのでこの場で否定して欲しいところだった。だが結論は夜に持ち越されることとなり、またしても集落で夜を過ごすこととなった。
そして夜、集落の中央で猪が捌かれて各家庭に分配された。だが巨大なだけあって大量に肉が余った。カテリアに残った肉はどうするのかと聞いたところ近隣の集落で他の食べ物と交換するらしい。ちなみにトリニィのトレント族との集落にも取引はあるそうだ。
日が傾くとカテリアの家へと向かう。それは他の家の3倍はあろうかと思えるほどの大きい家で俺は驚かされた。
「カテリアって結構良いところのお嬢さんだったりするの?」
「? 普通だと思うけどなんで?」
「家でかいじゃん。他の家と比べて……」
「それは家族が多いからだよ」
俺はこの時いくら大家族とは言え、大きい家イコール金持ちのイメージを払拭できなった。おそらくテレビの影響で発想が貧困になっていたのかも知れない。だが俺のそんな考えは全員がテーブルについたときに吹き飛んだ。
「じゃぁ紹介するね。まずお父様」父親はムスリとしている。まだ納得していないのであろう。
「次に第1お母様」父親の右隣りに座っている美しい女性が頭を下げたが聞きなれない言葉に唖然とした。
第1?
「隣、第2お母様」その隣の女性が頭を下げた。俺は引きつる作り笑顔で頭を下げるしかできない。
「その隣が第3お母様であたしのお母様だよ」カテリアの紹介で更にその隣の女性が頭を下げた。だがその隣にはまだまだずらっと並んだ若い女性達が待ち構えている。内心冗談だろと現実を拒否したくなった。これは夢、夢なのかと。
この男のロマン溢れるような家庭環境に俺は嫉妬を覚えそうだ。男なら誰でも憧れるハーレム、それを実現した男が目の前にいる。
最も冷静に考えればそれだけ養って面倒を見るという苦労をすること明白である。だが嫉妬に燃えた俺にそんなことを考える余裕はなかった。
「それから、その隣以降は兄弟だよ。個々の紹介は面倒だから省略だ」
まだ嫁の紹介が続くのかと思われたがどうやら残りは姉妹だったようだ。カテリアはそんな兄弟の紹介をめんどくさそうに投げ捨てた。
兄弟たちからブーイングを受けたが省略したい気持ちも頷ける話だ。なにしろ兄弟だけでも20人はいる。男8名、女12名、いやカテリアを入れれば女13名か。ちなみにカテリアは8女とのこと。
ドラゴ族の女性はみんな勇ましい顔立ちをしている。昼間にカテリアから聞いた話によればドラゴ族は実力至上主義の社会で男も女もないのだそうだ。そしてやたらと序列を作りたがる。したがって兄弟は年齢に順に座っているわけではない。そしてカテリアは兄弟の中では序列3位だと自慢する。
「んで、この人があたしのダーリンのクリフだ!」
カテリアは俺を自慢げに紹介してくれたが兄弟達からは『なぜこんなヤサ男と?』とステレオの大合唱で批判された。
しかしながら大猪を一撃で倒したと伝えられると今度は『ありえない』と疑惑の目を向けられる。はっきり言ってこの場にいるのが辛い。早く解放されないだろうかと思うさなか無情にも料理がやってくる。
「そちらのお嬢さん達はなんなのだ? 一人はトレント族のようだが」
父親からの質問である。
「私はクリフの仕事のパートナーであるテレッサです」
「む、彼の嫁か?」
「いえ、あくまでも仕事上の付き合いのみであり、彼とは恋愛対象にもなりません」
その言葉に父親の顔は少し緩んだようだ。
「そっちのトレント族のお嬢さんとはどのような関係なのだ?」
「わ、私は……」
「そいつはトレニィ、クリフの旅に付き合っているだけの女だよ」
カテリアはトレニィを冷ややかな目で睨みながら彼女の言葉を邪魔した。道中でトレニィとはしばらく一緒に旅をしていることと建前上婚約者となっている経緯は軽く話してある。だがカテリアは女の感で何かを感じたようだった。
トレニィはカテリアの説明が気に入らなかったのかソッポを向いて膨れると「こ、婚約者だもん!」といい放つ。
思い切った言葉が彼女の口からもれたことに俺の目は点となる。だが気恥ずかしいのかトリニィは頬を赤く染めてそっぽを向いたままだ。
しかし、誤解を解いてから彼女の気持ちを聞いたのは初めてかも知れない。まだトリニィは俺のことをそのように思っていてくれたのだろうか。それともカテリアに対しての意地なのだろうか。今の時点では計り知れない。
カテリアは親や兄弟の前で堂々と『婚約者』宣言をされたためにかなり不機嫌となる。眉間にシワを寄せてトリニィを睨みつけていた。どうやら俺は最も恐れていた泥沼の三角関係へと突入したようだ。思い人は別にいるというのに。
カテリアの父親は二人の様子から何かを察したのか『やれやれ』と言った顔をしている。その後も根掘り葉掘り聞かれたが最終的には母親三人の「いいんじゃない一人ぐらい」の一致した一言で片が付いてしまう。俺の意思は無視ですか?
そして勝手に縁談が進み、それが気に入らないのかトリニィは終始不機嫌のままであった。だが無論俺はそんな話を受けるはずもない。だがそうなると飛び出してくるのは『掟』だった。結局のところトリニィ同様に婚約者扱いとされてしまった。
人の意思とは別に勝手に婚約者が増えてゆく……もう泣いて笑うしかない。
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