第14話 トレニィ6
――次の日。
小鳥のさえずる声で俺は目を覚ました。とても清々しい気分である。昨日あれだけ飲んだのに二日酔いにもなっていない。あのお酒を宇宙で売ったら絶対人気出そうだと思わず職業病がでる。
それにしても昨日の踊りのすばらしいことよ。踊っていた女子達もかわいいくて思わず目に焼き付けてしまった。いまでも目を閉じればしっかりと思いだせる。思わず顔がニヤけてしまいそうだ。
しかしいつまでも寝てるわけにもいかないので俺は体を起こすことにした。何気なく伸ばした手に突然ふにゃりと感触が伝わる。なん……だと!?
俺はまさかと思いつつ恐る恐るその感触のものに目を向けると布団が明らかに不自に膨らんでる。丁度人一人分潜り込んでいる大きさだ。
え、マジかよ。これは漫画みたいな展開を期待してよいのか? しかし昨日の夜のことはまったく記憶にない。宴会後に家に連れ込まれてトリニィにベッドに押し込まれて……
え? え? え? まさかやっちまったのか?
嘘だろ? 始めてだったのに全然記憶がねぇ!
俺は手に触れいるものをもう一度ゆっくりと優しく触ってみた。ふにゃんとしたなんとも柔らかい人生初の感触が……不覚にも生唾をゴクリと鳴らしてしまった。
意を決して布団の端っこを掴んで勢いよくガバッと剥いでみる。
――なんと、そこには人を駄目にするビーズクッションが!!
「……………………」
……人生、そんなもんだヨ。漫画みたいな展開を期待した俺がバカでした。
「クリフ、起きたの? おはよう」
かわいい女の子の声が聞こえてきた。今度は幻聴か? それともまだ夢の中か? 俺は同じ過ちを繰り返すまいと呆然としていると突然ほっぺに柔らかい感触がした。
唇のしっとりした柔らかい感触。触れなくともわかる人の体温、そして彼女の髪の香り。「え?」っと俺は思わず間抜けな言葉を発してしまった。
そこにはエプロン姿のトリニィの姿があった。キスしたのが恥ずかしかったのか彼女の頬は桜色に染まっている。俺の頬にキスをしてくれたサクランボのような潤んだ唇。トロンとした彼女の瞳からは恋の波動を感じた。
「お、おはよう。トリニィ……」
「もう朝だよ。ご飯作ったから早く起きて、クリフ」
「う、うん」
まるで新婚のようなシチュエーションのようなセリフに気恥ずかしくなる。だが頭が冴えてくるとそれは違和感に変わった。
――そういえばなぜ彼女と会話ができているんだ?
「また思ったことを口にしていますよクリフ。それは彼らの言語解析が完了したので翻訳機能が働いているからです。ついでに勝手ながらオプションの発声機能も有効にしておきました」
突然声をかけてきたのは目つきの悪い金髪幼女だ。つまりテレッサだ。
「翻訳機能が使えるようになった? 随分と早いな」
「ええ、昨日村のかたとできるだけ色々喋ってデータを集めていましたので、ようやく困らない程度には解析できました」
「ああ、それで昨日途中から姿消したのか……」
「別に姿は消しておりませんが。それとやはりと言うべきか彼らは私たちの事を『神様』と思っていたようです」
「神様? だからあんな宴をしたのか……」
「一応私のほうから誤解を解いておきました。当面は客人扱いとしてくれるそうです」
「そうかぁここの人たちは心優しい人で助かったなぁ」
俺は最初にコンタクトできた現地人がそんな優しい種族で良かったと胸を撫で降ろした。気性の荒い種族だったら『騙した』と言われて今頃吊るし上げられて火あぶりだったかも知れない。
「クリフー、朝ごはんだよ」
トリニィが食卓テーブルに料理の入っているスキレットを置くと声をかけてくれた。俺はベッドから起きて布団を簡単に直すと椅子に座る。目の前には彼女の手料理がたくさん並んでいた。色とりどりの料理はどれもおししそうである。だが……
「ものすごくおいしそうだね。でもちょっと朝からこのボリュームは多いかな……」
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。むしろ俺のためにこんなに作ってくれるなんて感激だよ」
「ほんと? よかった」
彼女のその笑顔で俺の心は高鳴りっぱなしだ。こんな優しくてかわいい娘が俺の彼女だったらどれだけ幸せかと思う。手にしたフォークで料理を口にするとこれまたなんとも言えないほどのおいしさが口に広がる。トリニィは料理も上手なのだと感心した。こんな娘の旦那さんは幸せ者だなと羨ましく思った。
「げふっ」
結局俺は全部平らげた。トレーラーの料理機ではこんな御馳走はありつけないからだ。しかもトリニィは自分のフォークで料理を俺に進めてくる。いわゆる「お口、あーんして」である。そんな無敵の技を使われて誰が拒めるだろうか。
だが散々世話になったがここでの用事は済んだ。そろそろジャミング発生装置にむけて早く出発すべきだろう。
「テレッサちゃんは本当にごはんよかったの? 昨日も食べてなかったよね?」
「はい。私はアンドロイドなので食事はしません」
「ふーん。よくわからないけどご飯が食べられないなんて残念ね」
「そこは一長一短ですので。お気になさらず」
テレッサはいつものジト目でジロリとトリニィを見つめた。そして今度は俺を睨んで何かを伺っているようである。
トリニィが席を立って食器をかたずけ始めようとしたときだテレッサは突如質問を投げかけてきた。
「ところでお二人にお話があります」
「なんですか?」
「なに?」
トリニィは片付けようしていていた食器をいったんテーブルに戻して再び椅子に座ると。テレッサの顔を見た。
「あなた方は朝から接吻したり、新婚のようなまねごとしたり、昨日の夜に何かあったのですか?」
トリニィは急に顔を真っ赤にした。テレッサから顔を背けてチラチラと俺を見て恥ずかしそうにしている。一体何なのだろうか俺はとりわけ何もしていないはずだが。だが言われてみれば確かに寝起きにホッペキスなど恋人か新婚さんがやるようなことだ。
「えっと、何もないはずだけど……」
俺はほとんど酔っていたので正直記憶が曖昧だ。かろうじて残っている記憶の範囲では何もしていないはず。服も昨日のまま寝てしまい、ジャケットはシワシワのヨレヨレとなってしまっている。
「え?」
「え?」
トレニィの「何を言っているの」と言わんばかりの反応に、思わず俺も以外という反応を返してしまった。すると彼女はぷるぷると震えだして手にしていたお盆で顔を半分隠して泣き出しそうなのか怒りだしそうなのか微妙な顔で睨まれた。
まずい、この反応は間違いなく彼女に何かしてしまったようだ。俺の背筋が寒くなり、冷や汗が流れた。
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