第10話 トレニィ2
亜人――それは元々空想的な産物の生き物である。しかし人類が宇宙に出てみると亜人と形容すべき宇宙人と出くわすようになった。それは人間のように四肢を持ち、二足歩行を行い、人間のような知性を持ちながらも、全く別の生物ことである。
しかしながら現実的にその姿は毛むくじゃらだったり、頭が蛇だったりおおよそ人間容姿とはかけ離れた生物であった。ちなみに亜人などという言葉は人類種にしか通用しない。
しかしながら彼女の姿はどう見ても人間である。こんな完全な人間型をしている亜人など見たことも聞いたこともない。もし新種なら大発見だ。
「そんな訳ないだろう、こんなかわいい娘が亜人なわけない。どう見ても人間じゃないか」
信じようとしない俺にテレッサは彼女の頭の草冠を摘まんで引っ張ってみせた。それはちぢれ麺のようにビロビロと伸びる。彼女はビクリと体を震わせると、蔓はテレッサの手を払うようにシュルシュルと元に戻ろうとしたのでテレッサは手を放す。すると蔓は完全に元の形へと戻った。
てっきり飾りだと思いこんでいたソレはまるで生き物のように動いており、明らかに彼女の意思で動いている。
「見てのとおりこれは体の一部です」
「ま、マジか……言葉は通じるか? 翻訳は可能か?」
「彼女が喋ってくれないことには解析のしようがありません」
異星人とのコミュニケーションは基本的に翻訳機を使用する。俺の体内には自動通訳装置のインプラントが埋め込まれていて、通常は自国言語への翻訳のみだが、それは相手も同じく翻訳機を使用しているのが前提となる。
相手側が持っていない場合を想定してオプションで相手言語への発音変換もしてくれる機能もある。営業職には必需品なので俺のはオプションありを使用している。
テレッサにはもっと強力な翻訳解析機能が備わっており、未知の言語でも自動解析してくれる。ただし、相手が喋ってくれないことには分析できないうえにサンプルは多く必要で時間がかかる。解析ができれば俺のインプラントにも反映されるので俺も喋れるようになる。
「そっか。とにかく傷の手当てが先だが……亜人って人間の医療キット使って大丈夫か?」
「クリフ……この娘の体はほとんど人間と同じです。ですから使用しても問題ないと判断します。遺伝子レベルで詳細を知るにはトレーラーの医療用の解析機が必要となります」
「そうかそうか、よれは良かった」
俺は安堵して救急キットに手を伸ばして中にある鎮痛薬を探した。ガサガサとかき回して薬を見つけて取り出した。テレッサの話では打ち身とのことなので冷やしておけば大丈夫だろう。
「ちなみに繁殖も人間と同じようなのでHするとできてしまいますら注意してくださいね」
「なんの忠告だよ! 俺は
テレッサに突っ込みを入れつつも手当の手を止めない。怪我をした彼女の足を掴んで靴を脱がそうとする。すると彼女の足のツルが俺の手に絡んできて引きはがそうとした。
以外にも力強い。彼女の顔を見ると今にも泣きそうな顔で何かを訴えている。きっと怖いから嫌だとでも言っているのだろう。
「大丈夫だって。すぐに怪我は治るから……」
彼女に漫勉の笑みで浮かべる。少しでも緊張がほぐれてくれれば良いのだが。再び彼女の靴をそっと抜がした。彼女の足のツルは俺の手に絡んだままだが先ほどのような力は感じなかった。微笑みが効いたのだろうか。笑顔は万能のコミュニケーションだ。ただし人間相手に限るけど……
彼女の足は真珠の球のように綺麗な肌で腕同様細くしなやかだ。そしてつま先にはかわいい足の指が新芽のように覗かせた。しかしバケツを当ててしまった足の甲は赤く腫れあがっており、見ていて痛々しい。
その幹部にスプレーを二度三度吹きかける。冷たかったのか一声漏らして体を強張らせてしまう。吹きかけたのは細胞を修復する薬だ。そして鎮痛剤であるシップを張れは治療は終わり。
鎮痛剤は10秒ほどで効いてくる。体を強張らせていた彼女はやがて痛みが引き出した足を不思議そうにしていた。
「効いてきたようだな」
「はい、問題なく効いております」
彼女は落ち着いたのか俺の腕に巻き付かせていたツルを引っ込めた。シュルシュルと蛇のよう引き下がると元の形へと戻る。
こういうのを見てしまうとやはり彼女は人間ではなく亜人なのだと再認識せざるを得なく、複雑な気持ちだ。
彼女が落ち着いてくれたのなら会話ができるか試してみることにした。会話といえばまずは挨拶からだろう。名前ぐらいなら身振り手振りで何とかなる。
「えっと、こんにちは。俺のは名前はクリフだ」
本当はクリフィクト・L・ヤグラザカだが長すぎて覚えれないだろうから愛称で教える。親指で自分の胸元を指し示す。だが彼女は何を言われたのかわかない様子でキョトンとした顔を向けている。その顔もかわいいけれども会話が成り立たないのは悲しい。今一度挑戦する。
「俺はクリフだ。クリフ、クリフ……クリフな」
自己紹介の定番、自分の名前を連呼だ。
「……クリ……フ?」
たどたどしい声で彼女は名を呼んでくれた。ただのオウム返しかも知れないが、それでも俺は嬉しくなって再び自分の名前を連呼した。つど彼女も再び呼んでくれる。
「んで、こっちがテレッサだ。テレッサ、テレッサ」
「……テレ……サ?」
小さい『ッ』が抜けたようだが許容範囲内だ。あとは彼女が名乗ってくれればコミュニケーション成立だ。期待をこめて彼女の反応を待った。彼女はやや戸惑った感じで小ぶりな唇を開いた。
「□□□、□□□トリニィ□□□……」
取りえず発音のニアンスから単語っぽい『トリニィ』は聞こえた。恐らくそれが彼女の名前かと思われる。
「トリニィ?」
「□□□トリニィ、トリニィ」
彼女の名前らしい単語を口にすると、彼女は自分の胸に手をあてて同じ単語を連呼した。思ったとおり名前だ。そうか彼女は『トリニィ』という名前なのかちょっと変わった名前だ。とはいえ俺の名前も彼女らからすれば変な名前かも知れない。
「オーケー、トリニィ。君はここで何をしていたんだい?」
俺の質問は彼女にとどかないだろう。だがそれでもかまわない。彼女に何か喋ってもらのが目的なのだから。彼女が喋ればテレッサの言語解析が働き、いづれ聞き取れるようになる。
彼女はこちらの反応をみつつ時折、言葉を返してくれた。言葉が通じないのでややもどかしいと感じる。
彼女は喋りながら説明するかのように指を指していた。一つは彼女が出てきた森の奥ですぐそこに川が見える。もう一つは彼女が持っていた木のバケツ。さらに彼女が向かおうとしていた方向。
「どうやら川で水を運んでどこかに持っていきたいと言っているようなだな」
「クリフ、彼女が持っていこうとしていた方向は集落があるところです」
「なるほど、水を持ち帰りたかったのか」
「そのようですね」
「おお、凄いぞ。翻訳なしでもこれだけ通じた!」
思わず感動してしまう。昔も翻訳機が通じない場合はこのようにして一歩一歩と言葉を交わしていたのだろうかと思うと大した苦労だと感じつつ敬意を抱かずにはいられなかった。つまり自分は凄いと……
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