第42話 お姫様抱っこ
その夜。
夜中の0時過ぎに、英一と先生が宿泊している部屋の扉が叩かれた。
焦っているのか大きな音で何度も。
ガチャリ
錠を外す音がして英一が眠そうな顔で顔を出した。
そこには、かおりがいた。
「おう、こんな時間にどうした?」
「大変なの、英ちゃん。先生と一緒にすぐに来て」
「ん?どうした?」
先生も起きてきたのか姿を見せるが・・・顔が赤い。
酒を飲んでいたのだろう。
「みのりちゃんが・・・すぐに来て!」
田中みのりの宿泊している1年生の部屋に入る。
みのりが寝ている周囲を、同じ部屋の部員たちが心配そうにのぞき込んでいた。
みのりは、ハァハァと苦しそうな息をしている。
顔が紅潮している。
英一が額に手を当てると、かなり熱い。
「どうしよう・・・英ちゃん・・」
「急いで澄子さんと宿の人を呼んできて。あとタオルが余っていないか?」
「あ・・これ・・・」
宿の名前がプリントされた未開封のタオルが手渡される。
英一は、洗面台でタオルを濡らしてみのりの額に乗せた。
「どうされました?」
宿の従業員と澄子が入ってきた。
「急病です、熱がかなりあります。最寄りの夜間診療をやっている病院を教えていただけないでしょうか?」
「は・・・はい。すぐに調べてまいります」
「先生は、田中みのりさんの親御さんの連絡先を調べておいてください。病院に連れて行くので、薬のアレルギーなどないか確認もお願いします」
「わ・・・わかりました・・」
壁に手をつきながら、足を引きずるように部屋に戻っていく先生。
その間、澄子はみのりの体温を測っていたようだ。
「38.2度。かなり苦しそうだね。早く病院に連れて行ってあげないと」
「すぐに出るので準備してきます」
みのりは、悪夢を見ていた。
苦しくて、苦しくて・・
その時、体が浮いたような感覚。
熱にうかされながら、うっすらと目を開ける。
そこには真剣な表情の英一の顔。
そしてみのりはたくましい腕に抱きかかえられていた。
お姫様抱っこの状態。
男性恐怖症のはずのみのり。
だけれども、ちっとも嫌ではなかった。
まるで映画の中のよう。
危機に陥ったお姫様を救い出す騎士のようだ。
大きな安心感につつまれ。みのりは再び眠りについた。
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