第41話 花火

 きゃあきゃあ・・・


 体操服姿の少女たちが、花火を振り回したりして騒いでいる。

 麦茶を飲みながら、英一はそれを眺めていた。


「英ちゃん!一緒にやろうよ!」


 かおりが英一のもとに走って来ていう。

 英一は苦笑しながら立ち上がった。


「はいはい。わかりましたよ」


 

 派手な花火をほとんどやりつくして、残ったのは線香花火。

 それぞれ、静かに見つめている。


 かおりと英一も同様である。

 かおりが持つ線香花火のチリチリと音を立てて灯る明かりを見つめていた。


 その様子を、離れた場所から一年生の田中みのりが見つめていた。



 田中みのりはもともと、男性が苦手だった。

 男性を前にすると怖くてすくんでしまう。

 柔道部に入ったのも、そんな自分の性格を変えたかったからであった。

 だが、なかなか男性に対する恐怖は無くなることは無かった。


 ところが・・・


 今日、英一と組み手をした。そして何度も技をかけて投げ飛ばすことができた。

 投げ飛ばした瞬間、胸がスッとした。

 そして、英一はみのりに対して笑顔で褒めてくれた。


 技をかける度に、英一の笑顔を見ているうちに、恐怖心がだんだんと薄れてていくのを感じた。


 みのりにとって、父親以外で初めて怖くない男性。



「みのり。何見てるのよ」


 ニヤニヤしながら、冴島由紀がみのりの肩を叩いた。


「え・・いや、先輩。なんでもないです」

「あ~さては・・・ニヒヒヒヒ・・」

「え・・・いや・・・そんなんじゃ・・・」 


 冴島由紀は、みのりの視線の先に英一がいるのを見てにやにやと笑う。

 顔を真っ赤にしたみのりは、もごもごと口ごもってしまう。



「それにしても、かおりと随分仲良しみたいだねぇ。親戚だとしても」

「そうですね・・・」


 かおりは、皆に英一のことを”家族みたいなもの”だと説明していた。

 それを聞いた部員たちは勝手に英一のことをかおりの親戚だと思いこんでいたのである。


 英一の方を見る冴島由紀と田中みのり。

 みのりは、体が熱くなっていることを感じていた。

 まるで炎が胸の中に灯ったように、心臓も速くなっている。


 これはもしかして・・・恋なのであろうか。


 それとも・・・

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