第36話 民宿 あさひ
「ようこそ、いらっしゃいました」
「「こんにちわ。今年もよろしくお願いします!!」」
マイクロバスで約2時間。
海にほど近い民宿”あさひ”に到着した。
毎年、女子柔道部の合宿に使っているため、すでに顔なじみである。
マイクロバスから、荷物を下ろす英一。
「澄子さん、運転お疲れさまでした。お部屋で休んでください」
「英一さん、ありがとう。そうさせてもらうよ」
部屋割りは、澄子さんが一部屋と山田先生と英一が二人で一部屋。あとは部員たちが6名ずつとなっている。
「あ~あ、英ちゃんと一緒の部屋が良かったな~~」
「そんなことできるわけないだろ」
「え~~」
そんな会話を交わす、英一とかおり。
部員たちは、やたらと距離の近い二人の関係に興味深々である。
家族?それとも、まさか恋人同士??
「あの・・すみません、佐々木さん。道場に畳を敷くのを手伝ってもらえませんでしょうか・・・」
ロボットのような動作で歩いてきた山田先生。
恐る恐る、声をかけてくる。
背が高く山のような体格のあいてが、ちょっと怖かったのだ。
「あ、澤木です。畳ですね、お安い御用です」
そんな山田先生に、にこやかな笑顔で答える英一。
その笑顔に、山田先生も恐怖心が薄れて行った。
それは、先生だけでは無かった。
部員たちも、さわやかな笑顔にドキッとさせられていたのだった。
「うわぁ・・すごい」
「力持ちですね・・・」
「・・・なんか、軽々とお姫様抱っこできそう・・・」
「見て・・あの広背筋すごいよ・・・触りたいな」
道場で、畳を敷き詰めていく英一。
腰を痛めている山田先生は椅子に座ってもらって一人で作業している。
畳を2~3枚軽々と持ち上げて運び、敷いていく。Tシャツ越しでも、鍛え上げられた筋肉がはっきりとわかる。
鍛え上げられた男性の肉体。
その姿を、ほとんどの部員たちが入口の扉の陰から覗いているのだ。
「あんたたち!何見てんのよ!」
そんな部員たちの背後から、不機嫌そうな低い声。
山本かおりである。
すでに道着に着替えている。
「早く道着に着替えてきなさい!!」
「「はあい!!」」
バタバタと逃げ出していく部員を見送るかおり。
道場の中に入ると、英一が畳を敷き終わったところだった。
ペットボトルの水を飲んでいる。
汗で、白いTシャツが肌に張り付いている。
上半身の筋肉がくっきりと浮かび上がっている。
かおりは、ジト目で英一を睨んだ。
「英ちゃん。ちょっとは自重してよ」
「え?なんのことだ?」
自覚のない英一。
かおりは、ため息をついて言った。
「いいから着替えて来て・・・」
「お・・・おう。わかった」
あわてて着替るために道場を出ていく英一。
かおりはその後姿を見ながら頭を抱えた。
なにしろ、英一は自覚が無いだけに無防備。
「これは・・・この合宿・・・油断すると危険ね・・・」
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