第34話 出発

 高校が夏休みになり、かおりはまずやったことは・・・

 夏休みの宿題を片付けることだった。


 といっても、自主的にではない。

 祖母の澄子さんの厳重な監視の元であった。


 しかし、昨年までは嫌々やっていた宿題も今年はがんばって早く終わらせた。


 その後、合宿の準備と称して買い物に出かけたりしていた。




 そして・・・合宿の初日。


「私が女子柔道部顧問の山田です。今回は、本当に申し訳ありません」


 コルセットで腰を固めてロボットのような動きになっている山田先生が挨拶をする。


「いえいえ、大変そうですね。ちょうど暇でしたから大丈夫ですよ」


 祖母の澄子が言う。

 その背後で、英一がマイクロバスに荷物を積み込んでいる。


「え・・と、あの方は・・・・?」


 明らかに、かおりの親と言うには若い男性を不審げに見る先生。

 だが、澄子はにこやかに答える。


「彼は澤木英一さんと言ってうちの道場の門下生ですのよ。いつも、かおりの練習の相手をしていただいているのです。保護者みたいなものですよ。見ての通り力仕事が得意なので一緒に来ていただくことにしましたの」

「はぁ・・・」


 確かに、背が高く筋肉隆々。力が強そうである。

 同時にいくつもの荷物を持ち上げては積み込んでいる。



 やがて、部員たちも全員集合したらしい。

 山田先生が点呼を取る。


 全員がマイクロバスに乗り込む。


 そして、運転席に澄子が、助手席に英一が乗り込んだ。


「澄子さん、すみません・・・私が運転できればよかったんですが・・・」

「いえいえ、私は道場の人間をのせて何度も運転しているから大丈夫ですよ」


 英一の持っている免許証は普通免許。

 マイクロバスを運転するには中型免許が必要なのだ。

 ちなみに、澄子は中型免許を取得していた。

 大会などで、道場のメンバーで移動することがあるためである。


「では、出発しますね。みなさん、シートベルトをしてくださいね」

「「「はーい」」」



 こうして、柔道部の4泊5日の合宿がスタートした。





 そのころ、道場では祖父の勘治が独り膝を抱えてすねていた。

「なぜワシ一人留守番なんじゃ・・・飯はどうしろと言うんじゃ・・・ぐすん」

 


◇◇◇◇

針本樹さまにご指摘いただいて修正しました。

旧普通免許ではマイクロバスは運転できないんですね。



参考までに。

 勘治は普通免許すら持っていません。

 

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