第28話 変化

「あなた、ちゃんと型を練習した方がいいわよ」


 安藤先輩は、道場を出るときに言った。


「柔道に、型は無いわよ」


 すると、澄子さんが横から言った。


「あら、柔道にも形の練習はありますよ。あなたはあまり好きじゃないようですけど」


 う・・・

 図星を突かれて、かおりは黙ってしまう。


「あと、技と技の連携も全くないわね。それでは、簡単にかわせるわよ。

 じゃあね」


 そう言い残して、帰って行った。





 その夜、英一相手に練習をするかおり。

 だが、まだ悩んでいるようだ。


「言われたこと気にしてんのか?」

 英一は声をかける。


「気にしてなんか無いわよ!」


 そう言いつつも、悔しそうな顔をするかおり。

 言葉と逆に、あきらかに気にしている。


「俺はラグビーしか知らないからなぁ・・・

 でも、ラグビーのタックルも繰り返し何度も基本の練習をするからなぁ・・・」


 すると、かおりは小さくつぶやいた。


「・・・私、技と技の連携って・・何かわからない・・・」

「なるほど」


 だが、英一は柔道を知らないので何を教えればよいかわからない。


 実際には、柔道には連絡技・連携技があるのだがかおりは苦手としていた。

 一つの技を力づくでかけることが多い。


「俺は、柔道は知らないからなぁ。ラグビーのタックルならできるけど」

「ラグビーのタックル・・・試しにやってみてよ」

「え・・・」


 さすがの英一も、かおりに対してタックルをしたことは無かった。

 小柄なかおり・・・怪我をさせるのが怖かった。


”まぁ、力を加減すればいいか・・・そもそも、かおりに通用するかもわからないしな”


「まぁ、ちょっとならいいけど」

「じゃあ、お願い!」


 かおりは、英一から離れて立った。

 英一はかおりに、中腰のような態勢で進んでいく。

 そして・・・一気に間合いを詰める。

 かおりは、ステップを踏んで左によけた・・と思った。


 その瞬間、かおりの視界から英一が消えた・・・瞬間に、お腹に衝撃を受けて吹っ飛んだ。


 気が付くと、畳の上にあおむけの状態。

 その状態で、かおりは英一に聞いた。


「よけたと思ったのに・・・どうやったの?」


 仰向けのかおりの隣で胡坐をかいて座る英一。


「タックルは・・・相手の動作の予測と、自分に有利な方にステップを踏ませるのがコツなんだ」

「踏ませる・・・?」

「コース取りや動作で、相手の動作を誘導するんだ」


 相手より早く動けば・・・相手より力が強ければ・・・

 そう思って練習してきた。

 でも、それだけじゃ足りなかったんだ。


「私・・・もっと頑張る。

 英ちゃん、付き合ってくれる・・・?」


 笑って、かおりに手を差し伸べる英一。


「まぁ、ここまで来たらいくらでも練習につきあいますよ」


 起き上がるのを手伝いながら言う。


「おいしいご飯も食べさせてもらってるしね」


 その日から、かおりの練習内容は変わった。

 

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