第27話 そしてまた、何度も押し倒されるJK

「英ちゃん!特訓よ!」


 そう言って、かおりは平日の夜は英一を相手に激しい練習をする。

 相手をしながら、英一は”う~ん、違うんだけどなぁ・・・”と思っていた。



 そして、次の日曜日。


 ダアン!


「あれは・・・どちらかと言うと力が入っていないように見えるんですが?」

「そうじゃな、あれを脱力と言う。さまざまな武道の基本じゃ」


 ダァァァン!!


「脱力した方がいいんですか?」

「丹田・・腹の奥には力を籠めることで体の芯は安定するが、四肢は脱力することで素早く動かすことができるのじゃ」

「なるほど。ラグビーでもステップ踏むときは似た感じですね」


 ダアアアァアアン!!


 今日もかおりは安藤先輩に投げられっぱなしである。

 悔しそうなかおり。


 より速く動こうとはしているのだろう。

 だが、むしろ力が入ってしまい動きが硬くなっている。

 より直線的で・・・攻撃がバレバレである。


 それを道場の隅でお茶を飲みながら、まったりと見学する英一とかおりの祖父母。


「あら・・・そんな動きだと、攻撃がわかりやすいわよ?」

「う・・うるさい!」


 安藤先輩に飛びついて行っては・・・すぐさま畳に叩きつけられてしまう。


 ダアアアアアアアン!!


 無論、手首や肘を極めての投げは柔道では反則である。

 だが、祖父母は何も言わない。


 相手をしている安藤先輩が、ケガをしないように技をかけているのがわかるからだ。


「やれやれ、我が孫娘ながら・・・学習能力が低いのぉ・・」

「これは、もうちょっと投げられてもらわないといけませんわね」

「それは、怖いですよ?」


 祖父母もスパルタである。

 獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすという。

 まさに、同じことを孫娘にしようとしているらしい。


”本当に怖いなぁ・・・武道家って”


 英一は、勘治と澄子を見ながら思っていた。


「それにしても、よかったっす」

「何がじゃ?」


 英一の言葉に、かおりの祖父は不思議そうに聞き返した。


「安藤先輩とかおりちゃんが、こんなに仲良くなるだなんて思ってもいなかったっすから。もっと早く紹介すればよかったですね」


 ニコニコしながら、能天気に答える英一。

 本気で、二人の女性が仲が良いと信じている眼だ。


 ブフォッ!!


 それを聞いた、かおりの祖父の勘治はお茶を噴出し、ゴホゴホと咳をした。

 お茶が気管に入ったらしい。


「大丈夫ですか?」


 背中をさする英一。

 そんな英一を、信じられないといった目で見る勘治。



 そして、澄子さんに小声で話す。


「わしは、この男の鈍感さがむしろ怖いのじゃが・・・大丈夫じゃろうか?この男?」


 そんな勘治を冷ややかに見ながら澄子さんは言った。


「あら。あなたも、たいがい鈍感でしたわよ」

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