第25話 告白

「安藤先輩!」


 振り返る。


「安藤先輩!好きです!付き合ってください!」


 花吹雪の中。

 大きな桜の下。


 頭を下げ、女性に告白している。

 真剣な表情。


 告白している男性を見つめる山本かおり。


 その告白の相手は、英一の教育係である安藤。

 サラサラのストレート。ロングヘアが美しい女性。


 まさに、かおりが夢で見た光景。


 だが少し違っていた。



「あ・・俺ら、何を見せられてるんだろう」

「告白の場面でしょ・・」


 英一とかおりは、その告白の場面を横から見ていた。


 告白している相手は・・・・

 英一の同期の嶋田であった。


 頭を下げ、右手を安藤先輩に差し出している。


 その告白に対する安藤先輩の返事は・・・



「ごめんなさい、嶋田君。私、他に気になっている男性がいるの」



 がっくりと膝から崩れ落ちる嶋田であった。






「あ・・俺、嶋田を連れていきますね」


 英一は、うずくまっている嶋田を抱え上げる。


「おい、嶋田・・・飲みすぎだぞ・・・。さ、向こうに行くぞ」


 どうやら、嶋田は結構飲んでいるようである。

 英一は、軽々と嶋田を抱え上げて花見の席の方に連れていく。



 あとに残された、かおりと安藤先輩。



 正直気まずい。

 だが、かおりは勇気を出して聞いた。


「あの・・・もしかして、気になっている人って・・・英ちゃん・・・澤木さんですか?」

 かおりは、安藤先輩に聞いた。


 それを聞いた安藤先輩は、笑って言った。


「さぁ・・・どうかしら?もしかして、あなたは澤木君のこと・・好きなの?」


 かおりは、安藤先輩をキッと睨んで言った。


「そうだとしたら、どうなんですか?」

「へえ・・・でも、澤木君を犯罪者にするつもり?」

「同意があれば大丈夫です!」

「そうかしら?」


 かおりは、むっとして言った。


「私・・負けませんから。なんだったら勝負してもいいですよ」

「勝負?何をするのかしら?」

「柔道だったら絶対に負けません!」


 すると、安藤先輩は首をかしげて顎に人差し指を当てて笑顔で言った。


「あら・・・あなた、全くやったことのない素人の私に柔道で勝負しろなんて言うの?卑怯じゃないから?」


「う・・・そ・・・それは・・・」


 でも、かおりにとって柔道以外の勝負のしかたが思いつかなかったのだ。

 唇をかむ、かおり。


 そんなかおりを、眼鏡の奥からじっと見つめる安藤先輩。


「でも・・・そうね」


 いらずらっこのように、ニッと笑って言った。


「いいわよ。柔道で勝負しても」


 驚くかおりに、さらに告げる。


「わたしもね・・・負けるつもりも逃げるつもりも無いの」

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