第23話 桜の樹の下には 屍体 が埋まっている
金曜日の夜。
道場でかおりと英一はいつものように練習していた。
今日は、もろ手狩りの練習。
かおりは素早い動きで英一に飛び掛かっていく。
だが、英一はそれをステップを踏んでよける。
「え~~!なんで英ちゃんよけられるの!?」
「だって、ラグビーのタックルと同じだからなぁ」
「それでも、なんでよ!」
すると、英一は頬をポリポリ搔きながら言った。
「だって、かおりのタックルってフェイントもなくまっすぐ来るから・・・」
かおりの攻撃は、素早い・・・が、まっすぐなのだ。
フェイントや、虚を突いての攻撃が少ないため読みやすい。
「ええ~~!なんか、悔しい。もう一回!!」
そう言って、何度も攻撃を仕掛けるかおり。
一応フェイントらしき動きはするが・・・見え見えのわかりやすいフェイントなので効果が無い。
英一は思った。
この弱点を克服すると、さらに強くなるんだろうけどなぁ・・・
次の日の朝。
例によって、また泊まっていた英一が朝食を食べていると香りが、ばたばたと走って来た。
英一の仕事は休みだが、かおりは学校があるのだ。
遅刻寸前である。
「早くしないと遅刻するぞ~」
「なんで起こしてくれないのよ~!!」
「起こそうとしたぞ」
起こそうとしたら寝ぼけて関節技をかけてきたので逃げ出したのだ。
「じゃあ、いってきま~す!」
玄関に向かって駆け出すかおり。
玄関で見送る祖母の澄子に小さな声で告げる。
「あ、お婆ちゃん。今日、友達とちょっと予定があるから夜ご飯いらないからね」
「あら、そうなの?英一さんもいないって言うから寂しいわね」
「じゃ、いってくるね~」
お弁当を受け取り駆け出すかおり。
だが、実際は友達との予定などは無かったのだ。
夕方、職場近くの公園。
巨大なレジャーシートの上でポツンと座る英一。
「おお~~!ここか!なかなかいい場所じゃないか。まさに桜の木の下だな」
場所取りをしていた英一のもとに、
英一の職場の人々がやって来た。
今日は、英一の職場の花見なのだ。
「澤木君、場所取りお疲れ様。これ、ホットコーヒーね」
「あ、ありがとうございます!ごちになります」
安藤先輩が、英一に缶コーヒーを手渡す。
春とはいえ、夕方になると冷えてくる。とてもありがたかった。
買い出しメンバーによって、缶ビールや日本酒が持ち込まれた。
スナック菓子。オードブル。
そして、カセットコンロの上には大きな鍋。その中身はおでん。
こうして、花見が始まった。
波乱の花見が。
2時間後、全員御酔いが回っていた。
「だからね、澤木君。君はもう少し、相手の心を理解した方がいいわよ~」
安藤先輩もかなり酔っているようである。
赤い顔をしながらいつものように英一に説教をしている。
「はぁ。相手の心ですか」
「そう!ちゃんと(女心を)理解しなきゃダメ!」
そう言って、まっすぐ見つめてくる。
英一はどぎまぎしながら、眼をそらして言った。
「あ・・・すみません。ちょっとトイレに行かせてください」
そう言って席を立って、公衆トイレの方に向かう。
残った安藤先輩。
「だから・・理解してほしいのに・・」
トイレから出てきた、英一。
夜になって冷えてきた。
風に舞う桜吹雪。
「英ちゃん!」
振り向くと、かおりが立っていた。
「え?こんなところで何やってんだ?」
英一は驚いて聞いた。
「私もお花見したくて来たんだ。満開だね~」
そう言って、ニシシと笑うかおり。
「おまえなぁ、こんな時間に女子高生が一人で出歩くのは良くないぞ」
「じゃあさ、英ちゃんが帰りに送って行ってよ」
「おいおい、俺はまだ職場の花見が・・・」
風が吹いた。
舞い散る桜の花びら。
街灯に照らされてひらひらと舞い散る。
「へえ・・・夜の花見ってきれいなのね」
「そうだな」
ため息をついて、英一は来ていたジャンパーを脱いでかおりの肩にかけた。
「寒いからな。風邪ひくなよ」
かおりは、ちょっと顔を赤らめた。
「ありがと、英ちゃん」
「あら、澤木君。その娘はどなたかしら?」
二人にかけられた声。
桜吹雪の中、安藤先輩が腕を組んで立っていた。
なぜか、睨んでいる安藤先輩のその目がいつも以上に怖かった。
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