第22話 誤解
「それで、昨日の宴会はどうったったの?」
土曜日。
道場で、上半身のストレッチを英一に手伝ってもらいながらかおりは聞いた。
「どうだったって・・おれはほとんど飲めないからなぁ。先輩の説教をずっと聞かされていたよ」
英一はぼやくように言う。
「へえ、本当に飲み会の席で説教ってあるんだ」
「そんなのばっかりだよ、毎回」
「サラリーマンって大変のね~」
高校生にとって、宴会など他人ごとではある。
でも、気になることはあるのだ。
「それで・・・宴会の後にお持ち帰りしたりすることってあるの?」
ドラマから得た知識である。
イケメンが、美人の女性をお持ち帰りする。英一も、そんなことをしていたりしないだろうか?
心配である。
しかし、英一は大笑いした。
「あっはっは。そんなこと漫画でしかないよ。見たことないね」
「そうなんだ」
「昨日だって、タクシーで先輩を自宅まで送っていったあとは一人で帰ったよ」
「ふうん」
そう言いながら、内心ではかおりはホッとしていた。
お酒の席で、英一が他の女性を口説いたり、口説かれていたししないか。そして、お持ち帰りしていないかが心配だったのだ。
それは、昨夜の嫌な夢の影響でもある。
背中を伸ばすストレッチに変更する。
「それで、もうしばらくは宴会は無いんでしょ?」
ところが英一の回答は意外なものだった。
「いやあ、今度の土曜は会社の花見なんだ。だから、土曜日も来れないよ」
「ええ!?」
大きな声で、驚くかおり。
「な・・・なんだよ、大きな声を出して」
「は・・・花見なの?」
「そうだよ、そのあたりが見頃らしいからね」
「なんで、毎週宴会なのよ!?」
「なんでだろうねえ。うちの会社はやたらと、社員の輪を重視していたり。結束とか団結とかの言葉が好きだからかなぁ?」
ブラックな会社にありがちである。
だが、かおりは聞いていなかった。
昨夜の夢の内容・・・
かおりは、昨夜の夢を思い出していたのだ。
花吹雪の中。
大きな桜の下で告白をするのだ。
「英ちゃん!行っちゃだめ!」
「そう言うわけにいかないよ。なんだよ急に」
かおりは、嫌な予感がしていた。
もし・・あの夢が、正夢だったなら・・・
不安でたまらなくなったのである。
ところで、かおりは一つ誤解をしている。
英一の言う”先輩”。
てっきり、男の先輩だと思っていた。
そう、昨夜は英一はお持ち帰り寸前だったのである。
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