第19話 第2部 エピローグ

「せっかく、くっつきかけていたのに。また、折れてるな。ぽっきりと」

「はぁ・・・」


 レントゲン写真を見ながら、にらみつけてくる医者。

 診察しているのは、かおりの祖父の山本勘治。

 いつも英一と会うときは不機嫌である。


「勝手にギプスを外すなんて馬鹿なことをした報いじゃな」

「すんません・・・」


 ふう・・とため息をつく勘治。


「とはいえ、今回のことは感謝もしてるのじゃ。かおりは、今日までは生気が抜けたようであったからな。立ち直ってくれたのは、お主のおかげだろうからな」

「はぁ・・そうでしょうか」

「まぁ、これなら手術する必要はないだろう。新たにギプスで固定するだけでよいじゃろう」

「はぁ、すんません」

「ただし・・・」


「はい?」

「ウチに泊まることを許可したわけではないからな?」

「はぁ・・・」

 だが、今夜は泊まるようにかおりと澄子さんに強く言われているのだ。

「わしは、お前とかおりの交際を許可した覚えはないからな」


 すると、英一は首をかしげて言った。

「は? かおりさんと交際? そんなわけないじゃないですか?

 だって高校生ですよ?」

「そ・・そうなのか?」

「はい、ありえませんよ」




 その日の夕食はすき焼きだった。

 英一は、向かいに座った勘治に睨まれていた。殺気がこもった、物凄い表情。


「英ちゃん、食べにくいでしょ?食べさせてあげようか?」

「いや、右手は大丈夫だから」

「え~、遠慮しなくていいから。はい、あ~~ん」


 勘治の視線に、とても居づらい英一。

 それに気づかず、英一に嬉しそうにぴったりくっついてくるかおりであった。




 その晩、英一は客室に泊まった。

 いつもなら、かおりが自分の部屋にひっぱっていくのだが。なぜか今日は恥ずかしがったのだ。


 8畳の広い和室。

 今日は静かに眠れそうだ。






 朝、英一の胸の上で眠るかおり。

「むにゃむにゃ・・・えへへ・・大胸筋だ・・・・」


 夜中に寝ぼけて英一の布団に入って来たらしい。

 

「はぁ・・・」


 相変わらずの朝であった。






 その日、職場に行くと課長に捕まって延々と怒られた。

 普通の会社なら、有給休暇を使うのは社員の権利である。

 だが、突然に業務の調整なしに休むのは自覚に欠けているとの論理だそうだ。


 まぁ、相変わらずのブラックである。



 2時間後、課長から解放されて英一は自席に戻って来た。

 おもわず、ため息をつく。

「お疲れ様」

「はぁ、昨日はすみませんでした」

 

 そんな英一に、優しく安藤先輩は話してくれる。


「それで、昨日はうまく行ったの?」


 隣の席の安藤先輩に声をかけられる。


「はぁ・・まぁ、なんとか」

「そう」


 にっこりと微笑んで見つめてくる先輩。


「ところで、何がうまく行ったのかしら?」



第2部 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る