第17話 日曜日の逢引き

「ううむ・・・全然わからん」

 今日は日曜日・・・なのだが、職場に出勤していた。

 とある環境下でのみハングアップする不具合を解析しているのだが、原因が全然わからない。

 その再現実験と、解析作業を続けていた。


 そろそろお昼かぁ・・コンビニにでも行こうかな・・・

 そう思っていた時のことだった。


「やっぱり、出勤してたんだ。無理しないように言ったじゃないの」


 扉が開いて入って来たのは、安藤先輩。


「安藤先輩、どうしたんですか? 休日出勤じゃないですよね?」

「あはは、澤木くんが出社してるんじゃないかと思って様子を見に来たのよ。

 はい、差しいれ」


 そう言って、包みを渡してくれた。

 こ・・これは〇々苑の焼肉弁当。

 高級弁当だ。たしか、かなりの金額のはず。


「せ・・・先輩ありがとうございます!」

「はいはい、この貸しはそのうち返してもらうからね。それで、どこで詰まっているの?」

「はい、それが・・・」


 安藤先輩は、不具合の現象を聞くといくつかテストソフトのアイデアをくれた。

 15分ほど話をして、帰っていた。


 ちなみに、焼肉弁当はとてもおいしかった。

 どうやって、この恩を返そうかな・・・

 世話をかけっぱなしだ。





 夕方4時ごろ。

 先輩のアドバイスによって、不具合の原因のめどが立ったので、帰ろうとしていた時に携帯に着信が入った。

 電話の着信。


「はい、澤木です」

「もしもし、澤木さんですか?私は山本澄子です」

「澄子さん。どうされましたか?」

「もし、時間があったらお会いしてお話しできませんか?」

「はい?」




 澄子さんとは、そのあとすぐに職場の近くのカフェで会った。

 夜から予定があったので、その時間しか空いていなかったのだ。


「突然すみません。どうしてもお話ししたかったのです」

「いえいえ、僕の方こそ、いつもお世話になりっぱなしですから」


 紅茶を一口飲んで、澄子さんは本題を切り出してきた。


「話と言うのは、かおりのことです」

「はい。かおりさん、どうされました?」

「実は、最近は全く柔道の練習をしていないんです」

「は・・・・?」


 あの、柔道だけが生きがいのような女子高生が全く練習しないとは。

 にわかには信じられなかった。


「それは・・・もしかして、これのせいでしょうか・・・?」

 そう言って、左腕のギプスを指さす。


 すると、澄子さんはうなずいた。

「多分そうなのでしょう。それ以来、練習しても集中力を欠いてしまっていますので。

 最近で、よく言う・・・イップスと言う症状でしょうか」


 澄子さんから、意外な言葉を聞いた。

 野球やゴルフではよく聞くイップスと言う・・・職業病だ。

 ストレスなどが原因で、思った通りに体が動かせなくなってしまうと聞いたことがある。

 でも、柔道にもイップスがあるとは知らなかった。

「イップスですか・・・何か対処法はあるのでしょうか?」

「いえ、精神的なものが原因らしいので、なかなか良い方法はないと聞いております」

「なるほど・・・」


 澄子さんお旦那さんは医者なので、詳しいのであろう。


「英一さん。こんなお願いをするのも申し訳ありませんが、かおりと会っていただけないでしょうか?」


 澄子さんは、頭を下げてきた。



「いえいえ! お顔をあげてください。・・・僕はむしろ、このギプスを見せない方が良いと思っていたんですが・・」

「はい、どうなるかはわかりませんが。それでも、あの子に立ち直るきっかけになってくれればと思うのです」

「はぁ・・・」


 会うのかぁ。

 ギプス姿を見せたら、自分を責めたりしないか心配だったのだが。


「あの子の次の試合が、火曜にあります。

 それまでに立ち直ってくれればよいのですが」


「え?火曜ですか?」

「はい。どうかされましたか?」



 実は、これから現場に出張予定なのであった。

 明日の早朝から、大阪で発注元の会社と会議。

 その前に原因を調べるため、休日出勤していたのだ。

 帰宅するのは、明日(月曜)の夜中。


 火曜の前には・・・時間が無い。

 まったく、タイミングが悪いなぁ。

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