第9話 なぜか既成事実を作ろうと狙ってくる

 次の日の夜。

 残業が長引き、終わったのは22時。

 この時間は、正面玄関は閉まっているので通用口からしか出られない。

 疲れていた俺は、ついつい偵察を忘れていたが女子高生はいないようであった。


 今日は、ちょっと遠回りして遠い改札に向かう。

 ここなら、見つかるはずは・・・


 ぽんっ


 そこには、ふくれっつらの女子高生。

「お〜そ〜い〜!それに連絡くれないし!」

「おま・・どうしてここが!」

「そりゃあ、GP・・・ゴホンゴホン。なんだっていいでしょ、帰るわよ。ご飯も用意してるし」

「おい!今何いいかけた!?」

「いいからいいから」


 山本家に連行された俺は、美味しい夕食をごちそうになってしまう。

「あの、申し訳ないんですが・・これ食べたら帰らないと、終電がなくなってしまうので」

「あらあら・・大丈夫よ」

 澄子さんが何かを持ってくる。

「はい、Tシャツとか着替えを買ってきましたわ。パジャマや下着も買ってきましたのよ」

「はい?」

「あと、それからマムシドリンクとかいうのも必要かと思って一応買ってきましたの」

「それはいらないでしょ!?」

「ですから、今夜は泊まっていってくださいな」

「いや、流石にそういうわけには・・」

「いいんですよ、かおりちゃんのためですからね」

 助けを求めて、女子高生を見る。

 にぱっと笑って、勝ち誇ったような顔をしていた。


 まじかよ・・・



「あの、道場に布団を敷いてもいいんじゃないですかね?」

「あらあら・・・寒いですから」

「だからって、独身女性の部屋に泊まるのは駄目だと思うんですけど」

「あらあら・・・英一さんとかおりさんなら大丈夫ですよ」

「まだ、誤解したまま!?」


 今夜も、かおりの部屋に布団が敷かれている。

 いろいろ主張したが、聞いてもらえなかった・・



ーーーー


 その夜、布団に入る。

 すると、かおりが話しかけてきた。


「ホントはね、英ちゃんにはとても感謝してるんだ」

「・・・」

「私、練習相手もいなければ普段話せる相手もいないし・・」

「・・・だからって、同年代の女の子とか・・」

「ううん、だって柔道の練習に付き合ってくれるような友達はいないもの・・」

 ちょっと涙声が混じっている。

「だから・・せめて大会までは、練習に付き合ってほしいの」

「・・・」

「・・・お願い・・何でもするから・・・」

「・・・わかったから、男性にそんなことを言っちゃ駄目だ・・」

「ほんと・・?ありがとう・・本当に・・ありがとう・・」



 次の日の朝。上半身裸の俺の胸の上でかおりは目を覚ました。

「ほえ・・・?」

「おはよう・・・」

 パジャマの上着は、一晩でボロ布になった。

 本当に危なかった。あと一歩で永眠することろであった。


「・・・えへへ・・大胸筋だ・・・・」

 こいつ、筋肉フェチの変態じゃなかろうか・・・?

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