第7話 朝から激しい

 服を着ていないという大問題は、JKによって解決した。

 ただし、その代償は大きかった。


 今、俺は道場で道着を着て関節技を決められようとしている。

 この技は見たことがある。見たのはプロレスでだが・・・

 腕ひし十字。

「いったい何をしているのかな?」

「朝練よ?」

 なんとか、力任せに持ち上げて逃げる。

 

 危なかった・・・もうちょっとで、キマっているところだった。


「いつまでやるの?」

「朝ごはんまで」

 ニパッと笑う。


 寝技の応酬をウケながら聞く。

「なぁ、なんで練習相手が俺なんだ?」

「だって・・うちの道場に相手がいないんだもん。みんな相手してくれないの」

「え?他にも門下生はいるんだろ?」

「私じゃあ、自分の練習にならないって・・私以外の女子はいないし」

 袈裟固めに対し、なんとか転がって逃げる。

「じゃあ、教える人は?お父さんとか」

「お父さんもお母さんもいないし・・おじいちゃんは今は入院しているから・・」

「そか・・・ゴメンな・・」

「だから、私より体が大きい相手を探していたの、特に寝技の練習が必要なの」

 背後からの絞め技に対し、力技で振り切る。

「なんで寝技なんだよ」

「苦手なの、体が大きい相手だとかけるの難しいし、すぐ返されて一本取られちゃうから」


 その時、昨夜の老婆が入ってきて言った。

「かおりさんご飯できましたよ。英一さんも食べてくださいな」




 朝ごはんは、なぜか赤飯だった。

 ご飯を食べながら聞く。

「あの・・・突然お邪魔して申し訳ありませんでした。私は澤木英一と申します」

「私は、山本澄子ですよ。いえいえ大丈夫ですよ。それにしても、かおりちゃんがついに男性を連れてくるとはねえ・・」

「誤解してません?そんな関係じゃないですよ?」

「いえいえ、きっとかおりちゃんが無理やり連れてきたんでしょう?」

「はぁ・・そうなんです」

「で、結婚式はいつかしらねえ・・高校卒業してからかしら・・」

「絶対誤解してますよね!?」


 そこに、かおりがセーラー服を着てきた。

「私、これから学校だから。お昼には帰ってくるから、英一さん絶対待っててね」

「・・・」

「待っててね!!」

「・・・」

「待ってないとひどいから!!」

 バタバタと走って、玄関から出ていった。


 今日は、土曜日。休日出勤は明日にしよう。

「ところで、澄子さん。私の服はどこでしょう?」

 まだ、道着を着たまま。

「泥だらけだったので、クリーニングに出しましたわ。夕方には出来上がってきますね」

「すみません・・・ところで、この道着を借りていってもいいでしょうか・・・?」

「さすがに・・うちの外で着ていただくと困りますわ・・」

 道場の名前が縫い付けられている。

 何かしら困るのであろう。

「では・・Tシャツでもいいので貸していただくわけには・・」

「それが・・英一さんに合うのはもう無いと思われるので・・」


 非常に残念だが、夕方まで身動きが取れないらしい。

 ちっ・・逃げようと思ってたのに・・

 服をデリバリーするサービスはどこかにないだろうか?検索してみよう。


「それにしても、かおりさんを女手ひとつでお育てになるなんて、大変ですね」

「あらあら、あの子の両親もいるので大丈夫ですよ?」

「え?かおりさんはいないって・・・」

「今はポーランドに柔道を教えに出張してますけど、半年後には戻ってきますわ」

 おほほほ、と笑う。


 あのJK〜〜・・・紛らわし言い方しやがって。

 しんみりした俺の気持ちを返せ!!


「そういえば旦那さんは入院しているとか」

「あら・・そんなことまで・・・全くお恥ずかしい・・・」

「どこか、お悪いんですか?」


 山本澄子さんは、ため息をつく。

 そしてうつむいて言った・・・


「ただの、痔なんですよ」

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