第3話 少女は股間を握りしめてきた

 英一は、自分を殺そうとした少女が胸の上で笑うのを、信じがたいものを見るような目で見た。

 これは殺人未遂だ。

 犯人は、屈託のない笑顔で英一に抱き着いている。


「な・・・なにすんねん!」

 おもわず関西弁。(栃木出身)


「私のもろ手狩りを返すなんてすごい!あなた、かなりの柔道の実力者ね。私に付き合ってください!」

「柔道なんてやったこと無い!俺がやってたのはラグビーだ!!」

「私、練習相手を探してたの!あなたは理想的な相手!」

「話聞いてない!?」


「じゃあ。早速・・」

 ニコニコと笑って、おもむろに英一の股間に右手を伸ばし握りしめてきた。


 え?マジか?


 そして左手は英一の肩に伸ばそうとする。


 横四方固め・・・だが・・・

「え~!?手が届かない~」

 そう言って英一の股間を握ったまま、横たわった英一の胸の上で抱き着いているセーラー服の女子高生。

 しかも、路上。


 ・・・通行人が来たら、通報される・・


 怖くなった英一は、肩の痛みをこらえながら力任せに起き上がった。

「きゃ!」

 英一から転がり落ちた女の子はしりもちをついて小さく悲鳴を上げた。


「何するんですか、澤木英一さん!」


「え?なんで俺の名を・・」

「だって、そこに書いてありましたよ」


 首から下げている身分証明書。会社名と名前が書かれている。


「会社もわかりまひた」


 にぱっと、笑顔で笑ってくる女子高生。

 これは何か・・・ホラーなのか?


「さ・・いっしょに!」

 笑顔で両手を突き出してにじり寄ってくる。ゾンビか?


「だから柔道なんかしないって!」

「大丈夫です。痛いのは最初だけですよ」

「うそつけ!」


 英一は・・・

 恐怖に駆られ・・・全力で走った。そして会社の入っているビルに逃げ込んだ。

 職場で真っ青な顔で息を切らしている英一に、嶋田は聞いてきた。


「おいおい、どうした?」

「通り魔に襲われた・・もう俺はだめかもしれない」

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