第4話 クラス会議


 剣人が転校してしまった。


 担任のその言葉に、生徒たちは絶句する。

 瑠香も言葉を失った。


 そんな。

 だって剣人は、ついこの間まで普通に学校に来ていたのだ。


 こんな急にいなくなってしまうなんて。


 ガタン、と言う音が教室に響く。

 隼人が椅子に座り込んだ音だ。


「──そうか」

 ポツリと呟く隼人。 


「いなく、なっちまったのか……」

 その言葉は皆の心に重くのしかかる。


 剣人が、いない。


 どうして、いなくなってしまったのか。

 何故、誰にも言ってくれなかったのか。

 それを問える相手も、もういない。


「奏鳴がいなくなってしまったのは残念だが、みんなには、これからも元気いっぱい過ごしてほしいと思っている」

 先生が口を開いた。


 しかし、生徒の顔は暗いままだ。


 重苦しい沈黙が続く。


 その時だった。

 隼人が立ち上がる。


「くそっ、勝手にいなくなりやがって」

「風谷……」

 先生が心配そうに隼人を呼ぶ。


 それに首を振って応える隼人。

 そして、生徒たちの方を向く。


「なあ、みんな。こんなに静かなクラス、あいつが、剣人が見たら、何て言うと思う?」

 隼人のその言葉に顔を上げ始めるクラスメイト達。


「こんな暗い顔していることを、あいつが望むかよ?」

 皆に訴えかける隼人。


「剣人はもういないけどよ。だからって、こんなになってたらあいつに笑われちまう。そうだろ!」

 その言葉に一人、また一人と頷きだすクラスメイト達。 


 そうだ。

 剣人はきっとこんなの望んでいない。


「みんな、あと一年、あいつの分も楽しもうぜ!」

 拳を突き上げる隼人。


 ワッと沸き立つ教室。


 それを見て先生も安心したようだ。


 瑠香は、顔を上げているみんなを見て、笑みを溢す。


(ねえ、剣人。みんな、剣人がいなくても大丈夫そうだよ)

 瑠香は胸に手を当てる。


 剣人はいない。

 でも、思い出はここにある。 

 消えたりは、しない。


 それに、約束がある。

 剣人は絶対に約束を守ってくれる。

 瑠香はそう感じた。


 根拠はなかった。

 だが、確信できた。


 瑠香は、そっと手を握り締めた。



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