22 アーチャー ブルーベル姫~その➆
チュチュが笑みを浮かべ、草をかき分けながらベルたちのほうへと走ってきます。
その後ろからは、アイビーがゆっくりとこちらに向かって歩いてました。
アイビーが訊ねて来ます。
チュチュのほうには甲冑兵が二人だけだったが、ベルたちのほうに大勢いたのかと。
ベルはコクッと頷きました。
アイビーと別れて山のほうへと戻ったら、そこにはサイネリアが甲冑の集団を率いて隠れていて襲われた。
そして、チュチュのほうにいた甲冑兵は囮だったとことを伝えました。
すると、アイビーは申し訳なさそうに頭を下げて来ました。
それから自分の考えの浅さで、ベルたちを危険な目に遭わせてしまったというのです。
なぜ彼女が謝ってくるのか、ベルには理解できません。
むしろ、あのとき――。
チュチュの声を聞いたときに一緒に行かなかったベルたちのほうが悪いというのに。
なんだか、謝られているベルのほうが惨めな気持ちになります。
「まあまあ、みんな無事だったんだからいいでしょ? それよりも再会したことを喜ばなきゃ」
チュチュがベルたちの会話に入って来ました。
彼女がいっていることはもっともですが、後ろからは火の手が迫って来ているというのに、緊張感の欠片もありません。
チュチュの態度は、まるで町の酒場で気まずい雰囲気になった人へ向けるものです。
やっぱりこの子も、アイビーと同じく理解できない人間でした。
しかし、今はそんなことよりも急いでこの場を離れなければ。
きっとサイネリアが追って来ているはずです。
さすがの彼女でもこちらは三人と一匹。
どこか態勢を整えられる場所で待てば、あの恐ろしい異能を持ってしてもベルたちが有利です。
あたしが思っていることを話すと、アイビーとチュチュは同意してくれて、ひとまず草むらから出ることになりました。
「あっちなら木も草もなかったよ」
チュチュがいう方向へとベルたちはついて行きます。
そしてその移動中に、アイビーがさっきベルが考えていた作戦――。
火の手が届かないところへと行き、サイネリアが来るのを待つことに意見をしてきました。
彼女はやっぱり、サイネリアと戦うことよりも、こちらに協力してもらえるよう説得させてほしいと言うのです。
スプリングの炎で甲冑の集団が焼き尽くされたのなら、サイネリアにはもう味方はいない。
それならば、改めてこちらの言うことを聞いてくれるのではないかと、まるでベルのことを説得するかのように言ってきます。
ベルは強く言い返しました。
あの人――サイネリアは、たとえひとりになっても戦うことをやめない。
彼女がどういう人間でどういう事情で、殺し合いをしたがっているのかはわからないですが。
サイネリアはこの烙印の儀式を楽しんでいる。
そんな人間が、こちらに協力してほしい、誰も殺さずとも呪いは解けるのだと言ったところで無駄に決まっています。
「ですが、ブルーベル……。わたしはできる限りのことはしたい……。それでもダメだったら戦いますが、ようやくサイネリアを説得できる状況になっているのです。ここはどうかわたしの願いを聞いてください」
ベルがいくら言葉を返しても――。
アイビーは自分の意見を変えるつもりはなさそうでした。
どうしてこの人は、あの協力とは対極にいるようなサイネリアを説得できるつもりでいるのか。
アイビーだって、サイネリアの噂くらいは聞いたことがあるはずです。
呪われた後に、自分の国を滅ぼした姫であること。
その後に至るところで大量殺人を行い、かなりの賞金がかけられていることなど、かなり有名な話です。
それになんといってもアイビーは、サイネリアを直接見ているのです。
あの人の顔が美人でいてスタイルがいいのはわかります。
だけど、その前のめりな姿勢や俊敏な動きは野生動物と同じです。
そして、あの恐ろしい笑顔。
どう見ても心が壊れてしまった者の顔でした。
それを見ても、まだそんなことを言っているアイビーもまた、心が壊れているとしか思えません。
「どうして……どうしてなんですか!? サイネリアは……あの人だけは無理ですよ!」
ベルが大声をあげたその瞬間――。
「あらイヤだわ。乾いちゃってる」
聞き覚えのある声と同時に、ベルの目の前に黒い影が現れました。
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