第3話 神様!!!
『いいかい。どんなものにも神様はいるんだよ。尚樹ちゃんの大事にしている車のおもちゃにもね。おやつに食べた林檎にもね。林檎を乗せたお皿にも、お皿を拭くふきんにだっているんだよ。神様を大切にしていると、いつかきっといいことがあるよ』
そんな内緒話をしてくれたのは、俺が小学校にあがって間もなく亡くなったひいばあちゃんだった。
ひいばあちゃんが生まれて死ぬまでずっと暮らした家の裏庭に、小さなお社があった。屋根も梁も右に少しだけ傾いた、柱の太さも微妙に違う、大人の膝の高さもないちっちゃなそれは、なんとひいばあちゃんのDIYによって誕生した。ひいばあちゃんがまだ俺ぐらいの年の頃、自分で作って大切にお祀りするよう、夢の御告げがあったという。
神様のお休み処。
ひいばあちゃんはそのお社をそう呼んでいた。この世界に物の数だけ存在するという神様が、気が向けば立ち寄る喫茶店のような場所。ひいばあんちゃんはそんな物好きな神様たちがまるで見えるような顔をして、毎日朝晩、お社に手を合わせていた。
『ひいばあちゃんにも何かいいことあったの?』
『私はお多福だからねぇ。なかなかお婿さんになってくれる人が見つからなかったんだよ。そしたら二十五回目のお見合いの時に、おだんごの神様が来てくれた』
『おだんごの? おた……ふくって?』
『神様は私に、ほっぺたが落ちるほど美味しいおだんごを作る力を授けてくれたんだ。相手はそれまで会ったなかで一番の男前だったけれど、お茶請けに出したおだんごを食べて、こんな美味しいものを作れる人ならって言ってくれたの。私はめでたくお嫁さんになれたんだよ』
器量が悪いせいか、一人娘なのに婿の来手がなく困っていたひいばあちゃんが、神様の助けを借りてイケメンのひいじいちゃんをゲットした話だった。もちろん学校に上がる頃にはもう、俺は本当にあった出来事だとは信じていなかった。ひいばあちゃんのつくり話だと思っていた。
だんごの神様がいるなら、マスクの神様だっているだろ。
俺がふとそんな気持ちになったのは、つい先週のことだ。
今は空き家になっているひいばあちゃんの家まで、電車で一時間もかからない。半月に一度通ってすべての部屋に風を通し、簡単な掃除と庭の草むしりをするのは俺の役目だった。毎月、小遣いとは別にお駄賃をもらう約束ではじめた、あまり割のよくないバイトだ。
ひいばあちゃんのお社は、今では俺の両親にもほかの親戚たちにも、趣味で作った人形かプラモデルみたいな扱いを受けていた。要するにほったらかしだ。俺はお社を見るたび、ひいばあちゃんがかわいそうになって、適当に手だけ合わせていた。それが先週だけは、
(神様、マスクをつけてても当たり前な日常をありがとう)
俺はマスクの神様がお休み処でお茶してるつもりになって、真面目に拍手を打っていた。
「どうすんだよ?」
呆然と呟いた拍子に俺は尻餅をついた。立ち上がろうとして、またペタンと座り込む。
せめて彼女と挨拶を交わせるぐらいの友達になれたら。
心のなかでだけ見ていた夢をマスクの神様が叶えてくれたなんてファンタジー、すんなり受け入れられる方がおかしいだろ?
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