第12話 生きて笑おう
僕はアビゲイルさんの話を聞いてこの世界の怖さを知った。
そして彼女の辛い記憶を聞いて涙が溢れ出てきた。
どんな世界でも弱肉強食はあると思う。
それでも奪われる人にとっては
アビゲイルさんは大事な人を奪われたんだ。
何か月、何年前という話じゃない。
つい先日の話だ。
平静を装っていても、子供の僕でも分かる。
アビゲイルさんの心は多分ボロボロだ。
きっとまた復讐の為に身を粉にすると思う。
きっとそれじゃアビゲイルさんの家族は嬉しくないよね。。
僕はアビゲイルさんに近付き、抱きついた。
「辛いよね?苦しいよね?でも、無理しないで。命を大事にして。きっとアビゲイルさんの家族もそう思ってる。みんなの為に頑張らなくていいんだよ。だからみんなの為に生きて...生きて笑おう?またここに来て楽しい思い出をみんなに聞かせてあげよう?」
「ッ!?ぅ、うぅぅっ...ズズッ。生きる...?私は恨まれないのだろうか...?私がのうのうと生きていてみんなは...」
アビゲイルさんは涙を流しながら僕の瞳を見ている。
救いを求めるように...。
だから僕は応えるように優しく微笑んだ。
「アビゲイルさんがみんなの事を想うように、みんなもアビゲイルさんの事を想っているよ」
その言葉を聞き、アビゲイルさんは心の底から泣いていた。
枯れ果てたはずの涙は今、生きることに泣いていた。
僕を抱きしめるアビゲイルさんはどんなに強くても1人の人間。
辛い時は誰かが支えてあげないと心がずっと苦しいハズなんだ。
だから...
僕で良ければ、支えてあげたい。
僕で良ければ、笑顔になれるキッカケになってあげたい。
僕はこの時そう思った。
夕日越しに見るアビゲイルさんの背後に家族のお墓が見えた。
ふとした時に僕には雨が降っていないのに
僕にはその十字のお墓が泣いているような、意思の様なモノがあるのを感じたんだ。
だから僕は目を閉じて、
(きっとアビゲイルさんは大丈夫だから。
安心して、見守ってあげてください)
心でそう伝えた。
落ち着いたアビゲイルさんに案内されて、現在村の中にある家のリビングで2人向かい合っていた。
最近まで村人が住んでいた為か、生活用品は揃っている。
しかし他人の家だからか僕はくつろげないでいた。
そんな僕にアビゲイルさんは口を開いた。
「その、...すまなかった。それと遅くなったが助けてくれてありがとう」
今の彼女は心が晴れたからか、以前よりサッパリしているように感じる。
だけどそれが本来のアビゲイルさんなんだと思う。
「いえ、オオカミから守ってもらったり、夜も安全に過ごせる家に案内してもらったりして僕の方こそありがとうございます」
僕はアビゲイルさんにお礼を伝えた。
「そうか」と答えたけど、どうやらアビゲイルさんは嬉しそう。
きっとお礼がしたかったんだと思う。
しかしアビゲイルさんがいなかったらあの森で僕はどうなっていたんだろう?
...ルナもだけど。
僕は助けてもらってばっかりだよね。
〈...私は...ついでな訳?...〉
(ち、違うよ!2人には本当に感謝してるからっ!ありがとッ!)
〈...まぁ...いいよ...〉
いつも突然なんだよね~ルナって。
そういえばアビゲイルさんの事をルナが大事な人とか言ってたっけ?
(ねぇ、ルナ?アビゲイルさんの事知ってるの?
大事な人とか言ってたし?)
〈...知らない...〉
(っおぉい!?どう言う事?なんで知らないのっ!?)
〈...知らない...〉
駄目だ。これあれだ。黙秘権ってやつ。
1人でわちゃわちゃしていたらアビゲイルさんに変な目で見られた。
「ユウはいったい何をしているんだ?」
僕はアビゲイルさんにどう説明すればいいか困惑した。
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