第11話 アビゲイルの絶望~後編~



 王都を出て3日。

 私は馬に乗り、依頼のあった魔霧の森へと向かっている。

 街道から外れそろそろ森の入り口に着く頃だが、様子がおかしい。


 「そろそろ霧が出てもいい筈なんだが?」


 故郷に住む獣人なら当然知っている事なのだが、魔霧の森とはその名の通り魔物が棲む霧深い森なのだ。


 しかし普段なら霧が出始める距離にもかかわらず、晴々としている。

 そのまま馬を走らせたが何もなく、ついには森の入り口へと着いてしまった。


 「・・・依頼にある通り異変が起きているみたいだな」


 周辺には当然のように霧は無く、目の前の森には不気味な静けさだけが残る。

 警戒心をあげつつも馬に待機を命じ、剣を持つ。


 「依頼通りの仕事であればいいがな・・・」


 私にとっては魔物の駆除など日常に過ぎない。

 ましてやCランク。油断さえしなければどうということはない。

 しかし嫌な感じがする事に不安を感じる。


 それでも私は周囲を警戒しながら森へと入っていった。


 私は森の中で魔物を駆除していった。

 今のところレッサーウルフやゴブリン等、数も強さも低級の魔物しか見ていない。


 しかし森の中を散策中、見つけてしまったんだ。

 

 

 鎧を身にまとったオークが1匹、2人の獣人の髪を片手で持ち引きずっていた。

 その2人は私のよく知っている人だった。

 故郷の友人と、幼馴染。


 2人は手足が無く、見るからにもう既に死んでいた。

 私の頭は真っ白になり、言葉を失った。

 

 

 なにがあった?

 なんで死んでいる?

 なんでここにいる?

 アイツはなんだ?

 なんで、...なんで?



 次第に怒りがこみ上げてくる。

 考えるよりも先に体が動いた。


 「...貴様ぁぁぁぁぁァッ‼‼」


 走り寄り、ただ一振り。

 一閃でオークの首が地に落ちる。

 だが私は剣を刺した。

 腕に。足に。胸に。


 何度も。何度も。


 数回刺したら霧となって消えていった。

 魔石も砕いた。

 残されたのは知り合い者だけだった。


 「まさか、まさか...そんな事は...ッ」


 嫌な予感がする。


 なぜこの霧は晴れている?

 なぜこの森にオークがいる?

 なぜオークごときが鎧をつけている?

 なぜここにガルムとサーシャがいる?


 私は2人をその場に残して故郷へと走った。






 故郷に辿り着いたのだが、は私の知っている場所ではなかった。

 人の息吹を全く感じない。


 いるのは先程見たのと同じ恰好のオークだけ。

 あるのは血溜まりを作り、地に伏せる獣人だけ。


 私は剣を抜いた。

 私は駆除をした。

 なにも感じない。

 なにも考えない。



 気付いたら魔石を両手いっぱいに持っていた。

 無意識に回収していたみたいだが、その場に捨てた。



 私はふらふらと自分の家に帰った。



 だが玄関には妹を守るように父が覆いかぶさり、

 血溜まりを作っていた。

 貫く剣は2人の身体に刺さったままだった。


 私はその場で崩れこみ、涙を流し、そして意識を失った。





 

 目を覚ました私の目の前にはやはり父と妹がいた。

 いつまでもこのままでは可哀想だからと刺さる剣に手を伸ばしたが、抜けなかった。


 凄く、重い。

 心が、この剣に重みを与えている。

 

 もし私がこの村にいたらこんな事にはならなかったんじゃないのか?

 もし父の言う通りにしていればこんなにつらい目に合わなかったんじゃないのか?


 

 そんな自分の考えに首を横に振り、ゆっくりと剣を抜く。

 

 すべてはあのオーク達がやった事だ。

(せめてもの償いだ。

 私が全て駆除する...同じ悲劇を繰り返さない為に。)


 私は心にそう


 それから1日かけて私は村人全員の墓を作った。

 そのころには私の涙は枯れ果てていた。

 どれほど泣いただろう...私は疲れた。

 しかしやらなければならない事がある。



 まだあの森にはがいるかもしれない。

 が生きているだけで私は気が狂いそうだ。


 「父よ、妹よ。私は私のやりたいようにやる。

 だから...どうか安らかに」


 私は家族に別れを告げ、森へと歩き出した。





 森へと入って私は剣を持ち無心に駆除をしていった。


 何匹も。

 何回も。

 何度も。

 目につく魔物を全て。


 そして、あの場所へと辿り着いた。

 そこにはオークの軍団と1人のがいた。



 「だ~か~ら~!わっかんねぇの!?馬鹿じゃねぇの?あぁ?」



 どうやらあの魔族はこのオーク達を指揮しているようだった。

 大きな木の前でなにか説教をしている様だ。

 紫色の髪で褐色肌の黒い翼の生えた少年のような魔族。

 しかし少年とはいえオークと関りがある以上生かすつもりはない。


 「お前らが私の故郷を壊したのか?」


 私は歩きながらも剣を片手に問う。


 「あぁ?誰だお前?故郷ぉ?知るかよ。...いやその耳...あぁそうかあっちに似たようなのがいたなぁ‼お前あれだろ?オオカミのッ!チッ生き残りかよー。そういえばさぁ、面白い奴いんのな!?つかあれマジ笑えたよアビ姉さま~とか言ってたガキを守ってるオッサン‼剣もろくに使えねーくせに守ろぅ」


 「黙れ...そうか。お前らか」

 

 見つけた。

 私の大事な人たちを壊した奴らを。

(憎い...なぜのうのうと生きている?)


 「あぁ?今俺喋ってんだろうがッ‼さっさと死ねよカス‼あームカつく!お前らソイツ殺したら首だけ持って来い‼俺は先に行くからな?遅れんなよ?」


 私の事などまるで眼中にない魔物がどこかへ行こうとしている。


 「待てッ‼逃げるなッ‼」


 私の言葉に魔物は答える。


 「逃げる?ハッ、馬ッ鹿じゃねぇの?

 こいつ等倒してから言えよザコ」


 振り返り森の中へと歩き出す魔物。

 後を追おうとするが、オーク達が邪魔をする。


 「顔は覚えたぞッ‼

 この豚の駆除をしたら必ずお前を駆除するッ‼」


 目の前には100を超えるオーク。

 中にはもいるようだ。

 だが、関係ない。

 私は使命を、責務を果たすためにオークへと立ち向かった。

 長い、長い戦いの始まりだ。



 自身の死を覚悟して、私は走り出した。

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