第7話 5匹のオオカミ対赤狼のアビゲイル
今僕の目の前でアビゲイルと名乗ったお姉さんが戦っている。
一言で言うとアビゲイルさん、強すぎませんか?
5対1という明らかに不利な状況だし、
怪我を治したばかりの病み上がりなんだよ?
さらに僕がいる方へ来ない様にしてくれているみたいなんだけど...
戦いの素人が見ても分かる。
速さが、力が、技が、全ての格がちがう。
見とれているうちにすでに2匹のオオカミが死んでいる。
残りは3匹。
アビゲイルさんを囲うように唸りをあげるオオカミ。
しかし舞うように振るう剣に吸い込まれるように倒されていく。
「凄い...」
今またオオカミを1匹倒した。
生き物の死に免疫のない僕でも、死んでいくオオカミすらアビゲイルさんの舞の一部にしか感じなかった。
それほどまでに洗練された動きだった。
僕はただただ棒立ちで
そこを狙われた。
「ふぇッ?ウソッ!?なんでこっちに来るの!?」
2匹同時にアビゲイルさんの方へ駆け出した。
なんなく避けたアビゲイルさんはそのまま1匹を切り伏せたんだけど、もう1匹は攻撃を避け反撃せずにそのまま僕の方へと駆けてきた。
僕の身体はまだ思うようには動けない。
心臓の鼓動が早くなる。
足の速いオオカミはすでに目の前だ。
後を追うアビゲイルさんでも間に合わない距離だ。
せめて首だけでも守ろうと僕は腕を前にクロスさせて身を守ろうとした。
しかし、アビゲイルさんにはまだ攻撃手段があったんだ。
「駄犬が無駄な手間を増やさないで欲しい」
〈...
「へ?わ、分かった‼」
「剣技スキル【
僕がしゃがむのとアビゲイルさんの攻撃はほぼ同時だった。
何かがアビゲイルさんの剣から飛び出したのを見たと思ったら、オオカミに当たって細切れになりながら僕の頭上を通り過ぎていった。
振り返ると原形を失くした肉片が散らばっている。
ルナの助言が無ければ僕も道連れだったかもしれない事を思うと血の気が引いてきた。
〈...立ってても...良かったけど...〉
(良かった。本当に良かった。
死ななくて本当に良かった)
ルナの声は聞かなかったことにする。
「大丈夫だったか?お嬢さん?」
綺麗な顔してとんでもない人だよアビゲイルさん。
僕のトラウマになったよあの技。
「力加減したからしゃがまなくても良かったのだが。
すまない、怖い思いをさせた」
「そ、そうなんですか。ぼ、僕は大丈夫ですよ...ハハハ」
とりあえず笑って答えとく。
しゃがまなくても良かったんだ。
じゃあなんでルナは僕をしゃがませたんだ?
〈...肉片...浴びたかったの?...ごめんね?...〉
...こちらの方こそごめんなさい。そしてありがとう。マイフレンド。
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