第2話 緑の化け物なんてファンタジー
「ここはどこだっつーのッ‼」
開けた森の中心で僕は不安を叫んだ。
ここがどこだか分からない。
何をしたらいいか分からない。
人が当たり前にいた場所ではない。
見慣れた風景がある場所でもない。
僕は初めて1人で知らない場所にいる。
いつも一緒にいた妹さえいない。
「父さん、母さんッ。希...ッ!」
生まれて10年。
初めて1人ぼっちになった僕には未知の体験であった。
いつも一緒だった双子の妹がいないだけ。
ただそれだけ。
当たり前だったものが今初めて大事だったことに気付いた。
一人で出来ないことは二人で協力して乗り越えてきた。
これからもそうやって生きていくんだろうと思っていた。
僕の不安な気持ちが頬をつたう滴となる。
「グスッ...ズズッ...。希ぃ。」
涙で前がよく見えない。
不安な気持ちに押し潰されてしまいそう。
(なんで僕はこんな森なんかに1人でいるんだよぅ。
ワケわかんないよぅ。うぅぅ)
そんな僕を見つけてくれたかのように誰かが前方から近付いてきた。
僕の叫び声を聞いて助けに来てくれた人がいるみたい。
「グズッ、あのっ、ここは?...ッえっ!?」
涙でよく見えないけど近付いてくる人は僕と同じくらいの身長で、肌が緑
がかっている様に見えた。
距離はまだ5メートル程ある。
けれど何かが危険信号を発している。
落ち着いて涙を拭い、僕はしっかり前を見た。
「ズズッ、ふぇっ!?...何で?...ウソでしょッ!?」
僕は近付いてくる人から遠ざかるように
間違いでなければコイツは僕を助けに来たわけじゃない。
間違いなく僕の知ってる奴だったなら、
(僕を、殺して...食べに来た?)
生前?なのか僕が男だった時によくやっていたゲームに似た奴がいる。
緑色のソイツはいわゆる雑魚モンスターで序盤でよく出てくる。
装備を整えていれば序盤のいい経験値だったのだけど、
「まさか?ゴブリンッ!?なんでッ!?」
ここは現実の世界のはずだった。
僕は何故か女の子の身体になってしまったけど、僕の記憶がある以上僕は
であり、この世界は僕の知っている地球だと思っていたんだ。
ここがどこだか分からないけど、僕が僕であるならばここは現実の筈なんだ。
だけど僕の目の前には非現実的な風貌の化け物がゲームでお馴染みのこん棒?みたいなものを持ち近付いてきている。
大きな口には尖った牙が並んでいて笑っている様に見える。
ゲームでは分からなかったけど距離が離れている割には異臭が鼻を衝く。
「CG、じゃない、...よね?」
涙を拭った視界は現在バッチリ鮮明だ。
僕の五感は現実だと認識している。
(ここは本当に現実、なの?
でも、アイツ、本物だ。
あのこん棒で僕を殴ろうとしてるよね?)
僕は必死に出来るだけ冷静に状況を考えた。
この開けた場所にゴブリンと僕の二人きり。
周りの森の中は何があって何処に繋がるか分からない。
目の前のゴブリンの強さは未知数。
ゲームの知識は今は当てにならないかもしれない。
でも身体は動く。むしろ以前より軽く動けそうだ。
次に生き残る可能性を考えてみる。
敵のゴブリンは未知。
10歳の、まして女の子が戦えるとは思えない。
倒せたとしてもケガしてしまえば森から出れないかもしれない。
だけどゴブリンはこの一体とは限らない。
森の中こそ未知だと思う。
僕には今まで妹以外の人に負けたことがない取り柄が一つだけある。
今まで僕は大人相手だって負けたことがないんだ。
だからその取り柄に賭けてみる事にした。
「僕を捕まえることが出来るのは妹か神様ぐらいだッ‼雑魚に捕まる僕じゃないぞッ‼」
大見得切って僕は背中を見せて森の中に走りこんだ。
逃げる僕に気付き、奇声をあげながら追いかけてくるゴブリン。
走り出した僕をゴブリンが追いかけてくるのを背中越しに感じる。
(こんな所で死にたくない。だったら抗ってやるッ‼)
逃げ切ってやるぞ僕の得意な『かくれんぼ』で‼
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