第7話  伯爵令嬢は癇癪とお付き合いをする

「それで今度は一体何が原因でリゼは怒っているの?」


 せや、先ずはその原因を聞いてから対処をせなあかんさかいな。

 そやからと言って夫婦喧嘩は犬も……げふんげふん夫婦やのうて兄妹喧嘩か。


「実は……」


 簡単に言えば最近小人族のお兄様は全くと言っていい程リゼに構ってはくれへんとか。

 

 元々リゼは三兄妹の末っ子やからして基本的に甘えたや。

 一番上のお兄様はもう成人を迎えたからそこは普通に未来の公爵家当主となるべくや。

 現在はリゼパパと共に行動している故に何かとお忙しい。


 因みに小人族のお兄様は今年で15歳。

 王宮の文官としての道を着実に歩んでおられるとか何とか……だ。

 

 しかしである。

 まだ成人には二年ある訳で、準成人とは言えそこは普通に大人と比べればまだまだ自由な時間は山とある。

 そして当然リゼは自分も十分構って貰えると思っていると言うのに、何故か小人族のお兄様はこの三年もの間ほぼほぼ彼女に構うどころかや。


 屋敷にも帰ってこないらしい。


 そうして偶に忘れた頃に帰って来れば当然愛情が枯渇状態――――とは言えリゼは普通に皆に愛されているお嬢だがしかし……。


『お父様とお母様、それに他の者達とは違うの。勿論エマ兄様とレジー兄様ともそれぞれが違うのですからね!!』


 何やらその人々によって愛情が違うらしい。


             by リゼの主張



 抱きつこうとしたリゼへ小人族のお兄様は何時にない冷たい眼差しでリゼを見つめればや。


『悪いけれどこれ以上私へ接触しないで下さい。妹とは言えリゼももう10歳なのです。気安く異性へ抱き着く等公爵令嬢として如何なものかと思いますよ』


 そう一言だけ放てばや。

 また直ぐに出かけてしまったんやと。


 

「絶対絶――――対お兄様はリゼの事をお嫌いになられたのだわっっ」

「まあまあ少し落ち着こうリゼ」


 私は何とかリゼの癇癪を宥めようとした。


「ティーネやジルにはわからない事なのよ!! お兄様に愛されない妹何て。妹……ひっく、う、うぅぅぅわああああああああん。お兄様に嫌われた。お兄様に嫌われちゃったあああああああ」

「「り、リゼ……」」


 所謂ギャン泣きである。


 こうなると短くとも小一時間リゼは泣き止まない。

 私はこっそり気づかれないよう溜息を吐いた後何気に今まで静かやな~と思いつつジルを見れば……や。


「う、うぅ、私にはお兄様がいないけれどもです。これは余りにリゼがお可哀想過ぎます」


 な、泣いてる〰〰〰〰っっ。


 ねぇジル、それって貰い泣きなん?


 しくしくとハンカチを握り締めればや。

 背景に何故か梅雨時あるあるな雨露に濡れる紫陽花と蝸牛が見えてしまうくらいにじめじめし過ぎている。


 そしてそんなジルを見たリゼが少しだけ喜色きしょくを浮かべたかと思えばや。


「嬉しい!! ありがとうジル、私のこの心細い気持ちをわかって貰えて嬉しいぃぃぃ」


 そう言い終えると二人して泣きの大合奏が始まった。


 その間私はただ只管ひたすら彼女達が泣き止むまでじっと静かに紅茶を飲む。


 偶にはお菓子も摘まむけれどな。


 二人の気持ちが晴れるまでじっと我慢の子で耐えているのが、ここ最近私の精神面での鍛錬なのかもしれへん。



 因みにここはリゼの御屋敷や。

 お屋敷のお嬢様が親友とギャン泣きならば普通は侍女達が飛んで来る筈。


 せやけど今のところ誰一人として様子を見に来る者はおらへん。


 そう、言ってみればこれがリゼのストレス発散方法。

 

 こうしてストレスを定期的に発散しいひんかったらそれはそれは何かと大変らしい。

 とは言え何故に他人様のお子様へそれをさせるのかは甚だ理解は出来ひんけれどな。

 

 まあこれも友達やから我慢もするし出来るそれに――――。


「何時もごめんね。ティーネとジルが一緒にいてくれるとつい甘えてしまって……でも、誰にでもこの様に人前で泣いたりはしないのよ。そ、そうなの。ティーネとジルの前だけなの。二人がいてくれるから私は自由に泣く事が出来るの!!」

「わ、私もですわ。ティーネとリゼ、ティーネが傍にいてくれるとつい何時も以上に感情がす、素直に……ってわ、私はあわあわわわ」


「落ち着いてジル、そしてリゼも。いいの。一緒にいて気疲れするよりもリラックス出来るって素晴らしい事だと思うの」

「「ティーネ」」


「こうして二人がリラックス出来るのは嬉しいし私も今度何かあれば助けて頂戴ね」

「「勿論よ!! 私達は親友ですもの」」


 せや、親友やもんな。

 せやからもう少しして私がこの国を脱出する時もちゃんと協力してや。


 それに何だかんだと言いつつもこの二人の事を私自身が気に入っているから毎回のギャン泣きにも付き合えるのやしそれにな……。



「ティーネちゃんこれ良かったらお家へ持って帰って。何時もリゼの癇癪に付き合わせてごめんなさいね。私達の前では寂しくないと言って強がっちゃって本当に困った子なの」


 そう言いつつもやっぱりリゼは家族に愛されているのがめっちゃわかる。

 

 それから毎回お詫びと称して珍しい果物やお菓子をおば様がくれるんやもん。

 

 因みに今日は隣国のとある島でしか育たないと言う珍しい果物や。

 見かけは前世で見た事のある某〇〇県の名産、太陽の〇〇にそっくりなもの。


 じゅる。

 あ、あかん涎がっっ。

 これはめっちゃ期待大かな。

 もしかしなくても私の様にこの世界へ転生をした太陽の〇〇の農家さん何やろうか。

 

 心が浮き立ち思わずにんまりと口元が緩みそうになるのを必死に抑えつつ――――。


「何時もありがとう御座いますおば様。家族でご相伴にあずからせて頂きます」

「その様に畏まらないで頂戴。貴女はベティの大事な娘ですもの。私にとってはリゼもジルそして貴女も娘みたいなものなのだから……」



 勿論ジルにも同じお土産がある。

 私達はそれぞれの馬車へと乗れば別れを告げ帰路へとついた。

 そうまた一週間後に会う約束をして……。

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