第18話  伯爵令嬢と魔力測定の儀式 Ⅱ

振りに御座います王子殿下」


 敢えて私はそこを強調する。

 いやいや強調どころかぶっちゃけ私はこの人に会いたくはないんやけれどね。


「何時もと変わらず、いや今日は何時も以上に可愛いねクリスティーネ嬢」


 うんこの王子はこれくらいでは絶対にそんな言葉ではめげないし挫けない。


 そう言い終えればだ。

 本当に流れる様な仕草で以って私の手を掬い取ればあっと言う間に私の手の甲へとキスをする。


 紳士……いやここはもう物語に出てくる様なって言うか流石に本物の王子様だよ。

 その姿が何とも様になれば、全く嫌味にすらならないしキザな仕草の何もかもがあんたならば許せるよって言う気持ちになるんだよね。


 外野はそんな王子様の何気ない仕草の一つ一つに黄色い歓声と言うかもう叫んでいるよ。


 まあそんな事を思う私も最初の頃は心の中で盛大に叫びまくっていたりする。

 何故ならそれは普通にがないに決まっているでしょ。



 前世はおっさん化した干物女子何やもん。


 乙女な心何て当の昔に干乾びていたって言うのにだ。


 転生したのもかなり吃驚モノやけれど、乙女扱いされるのも何とか慣れたかなって思うのはつい最近の事だったりする。


 とは言えこれ以上のスキンシップはいらない。

 そして一刻も早く婚約者候補より外れたいのに……。



「相変わらずクリスティーネ嬢は連れないね」

「いえ別にこれが通常運転ですので」


 そんな私はこの王子様への態度は実に素っ気ない。

 いやいや異性に対してどんな態度で接すればいいのかがわからないだけだ。

 お仕事仲間やったら別に異性でも普通に話したりは出来ていたんやけれどもね。

 それ以外の事に関しの免疫は一切ないって言う事実が実に物悲しい。


「それよりも殿下はとてもお忙しいと父より伺っております」


 うんちょっと子供じみてはいると思わない事もないけれどもだ。

 わざと王様よりも少し多めに執務を、然も山の様に割り振ってきたとにっこり微笑みながらお父様が仰っていたよ。 


 まだ12歳のお子様に何て無体な――――て事は思わない。

 

 何故なら目の前にいる王子様はとても優秀だったらしい。

 

 これもゲームの情報とは違う所だ。

 まあゲーム上でもそこそこは出来る男だったけれどもや。

 悪役令嬢にいい様に操られる時点でアウトでしょ。

 おまけに幾ら興味を失ったからと言って王妃=私を辺境伯へ下げ渡すって流石にないわっっ。


 

 コホン、兎も角だ。

 幾ら優秀だろうともここがゲームの世界……である以上油断は大敵。


 そしてお父様が足止めとして用意しただろう執務の全てをきっと終わらせたのだろう。

 ほら、背後でお父様のただならぬ殺気が放たれているのはその証拠。


 でも無駄にイケメン過ぎるとお怒りモードとなった父は何時もと違い凄味マシマシで何やらめっちゃ怖い。


 とは言えだ。

 私とお母様へ向ける表情と視線はめっちゃ甘々で、お母様を馬車よりエスコートしている姿も実に眼福ものである。



 そこからの父と王子様との間にはバチバチと、何故か聞こえない筈の音が聞こえてしまう程の激しい視線の応酬。


 上辺だけの挨拶は微笑みながらと言うのがまた薄ら寒いと言うかもう極寒です。


 確か今は七の月……つまりは初夏。

 おまけにお天道さんが燦燦さんさんと照り注ぐ日差しはぶっちゃけ暑い。

 じんわりと汗が滲むくらいの筈なのに何故か寒いと感じる私が変なのか⁉


 もう儀式何て糞喰らえ――――と思い始めた頃だった。



「後ろが仕えておりますわ。ほら儀式も間もなく始まりますれば殿下、そして旦那様やティーネも中へと入りましょう」


 流石元祖天然お母様。


 貴女だけです。

 この空気を全く察知せずにのほほんとほほ笑んでいらっしゃるのは!!


 でもそのお陰かな。

 私達は神殿の奥にある儀式の間へと入室すればである。

 

 魔力測定の儀式が始まったのは……。




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