第17話  伯爵令嬢と魔力測定の儀式

「さあ神殿へ行こうか」

「はいお父様」


 なんと今日は私の魔力測定の儀式の日だったりする。


 特別な一日。

 そしてそんな日に相応しくも本日晴天雲一つもない。

 真っ青な空と燦々さんさんと光り輝くお天道さんが一つ。



 いやいやお天道さんが二つや三つもあれば――――ってここは前世日本やない。

 そうここは異世界、乙女ゲームの世界だった。


 お天道さんが一つだけと言う概念は前世の考え方。

 

 私が異世界へ転生した様にもしかするとお天道さんが二つや三つもある世界が存在するのかもしれへんしな。

 まあそんな世界があったら真夏なんて猛暑どころやないやろな。


 酷暑……よりもっと酷いんじゃね。


 そうなれば地上で人間が生きていられる保証がない様な気もしないではない。

 因みにこの世界は前世同様お天道さんは一つしかない。

 だから私は外に出ても炙りスルメにはならへんのや。


 

 そんなあほな事をつらつらと考えている間にやってきましたよ大魔神ならぬ大神殿。


 王都の東にある巨大且つ荘厳華麗な大神殿には大勢の人人人。

 

 何故なら今日は私だけの儀式ではない。

 四の月から七の月に生まれた者を対象とした魔力測定の儀式なのである。


「さあ私の愛しい宝物。お父様の腕の中へ飛んでおいで」

「お父様、私はもう子供ではありません」


 そう7歳とは大人への扉が開かれる一番最初の段階とされている。

 

 まあね。

 魔力の測定によっては大きく人生を左右される場合もあるやろしね。


 それはそうとクリスティーネの場合はどううやったやろ。


 ティーネのあざと可愛さは魔力とは違う体内に搭載されていたモノだったし、そこは魅了チャームとは別物だったと思う。


 今の私にあざと可愛さはないけれどな。

 と言うか私の性格上絶対無理!!



 確かにチャームがあればあんなバッドエンドもなかったし抑々そもそも王太子が浮気する前、いやこの際後でもいいよ。

 余程のお馬鹿でない限りチャームを王太子へ掛けておけばバッドエンドは回避出来た筈。


 それが出来ずに悪役令嬢と辺境伯によってバッドエンドを迎えた時点でティーネにチャームはないね。


 だとすればティーネの魔力は一体何?


 勉強や何もかもめっちゃ普通で顔がいいのとあざと可愛さだけしか思い出せない。


 あーでもいいか。

 これからそれがわかるんやろしね。

 深くは考えないでおこう。


 そしてお父様よ。

 めっちゃいい笑顔で両手を広げたまま何時までも待っていないで。

 


 そう私はこの日が来るのをずっと指折り数えて待っていたのだ。


 だって幾らイケメンでもね。

 元アラサー干物を通り越して既におっさん化した女子にとってこの爽やか親子関係は、もうめっちゃ公開処刑に等しいかったんやからね!!


 いや等しいではなく公開処刑そのものだって言うの。


 おまけにキスハグOKな外国人でもなけりゃあそこはね。

 慎み深い日本人気質が私の心の根底にしっかりとあるのだからして、お父様の喜ぶ愛情表現=公開処刑ははっきり言ってめっちゃ苦手なのである。


「お父様にはお母様がいるのでしょ。私は一人で大丈夫です」

「ティ、ティーネが冷たい!?」


 ツンと胸を張って馬車より降りる。

 

 別にお父様に意地悪をしたい訳ではない。

 ただただオーバーリアクションなイケメンを父親に持つ娘の気持ちを察して下さい。


「ベティっ、ティーネがっ、ティーネが私より離れてしまいます!!」

「まあまあ旦那様どうか落ち着いて下さいませ。ティーネももう7歳ですものね。少しだけお姉様になったのですわ」


 馬車の中で微笑ましそうな面持ちで私とお父様を見つめるお母様。


 流石です。

 今生の母よ。


「お父様はどうぞ存分にお母様とラブラブして下さい」

「お父様はティーネともラブラブしたいのだ――――っっ⁉」


「お義父上殿、クリスティーネ嬢は僕とこれからラブラブするのだよ」



 一瞬で黄色い感性ならぬ悲鳴が神殿前へと響き渡る。

 それだけで私にはわかってしまった。


 白地に青と金の礼服。

 その背には青と金糸で施された双竜。

 さらりと風に靡くのは白金プラチナブロンドの髪そして黄金に輝く瞳を持つ齢12歳にして王者の風格を纏う眉目秀麗王子様の登場だった。


 因みにあんたもいらんて。

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