第12話  側近Rは人生の挫折を味わってからの再出発をする Ⅱ

 今私の目の前にいるのは本当に私と同じ5歳児なのでしょうか。


 白金プラチナブロンドのサラサラな髪と黄金に輝く瞳を持つそこは5歳児らしいいとけなさがあるもののです。


 しかしながらこれは醸し出されるオーラは間違いなく5歳児が纏うものではない!!


 何故なのでしょうか。

 可愛らしさの中に研ぎ澄まされた刃の様な刹那の美しさを秘めた整い過ぎる容貌が一層私の中で膨れ上がる恐怖を何処までも煽っていく。


 そうですね、叶う事ならば今直ぐにでもこの場から逃げ出したい。


 もうここは子供らしく大泣きして逃げてしまいたい!!



 なのに何故でしょう。

 私は床に縫い付けられた様にピクリとも動く事が出来ないのです。

 それと同時に今この場より逃げ出せば私の描く人生設計は音を立てて崩れ去っていく。


 しかし今はその遠い未来よりも今この状況を何とかしたい!!



「――――ふぅん案外君はお子様なのだね。まあまだ僕達は5歳だから普通にお子様と言えばそうだけれど」


「あ、あ」


「その様に怯えなくともいいよ、別に本気で殺す心算なんてないからね」



 う、嘘だ!!

 先程もだけれど今も5歳児が持つものじゃないモノを持っているのではありませんかっっ。


 そう言葉として発する事が出来ないくらいに今の私は、私の心は大人ではなかったらしい。

 

 ああ認めましょう。

 私は普通に5歳児の子供ですよ。

 殿下とは違い少し小生意気なお子様なのです。

 これで満足でしょう。


「欲を言えばもう少し弄りたいと思ったけれどね。でも君がもう泣きそうだからやめておいてあげるよ」


 弄らなくて結構です。

 そして出来れば私を今直ぐ開放して下さい。

 私は少し遠回りになりますが、身の丈に合った人生設計をもう一度立て直しますので。


「ああ、今更僕から逃げようとは思わないでね。ほら、僕は何れこの国の王となるでしょ。だから役に立つ者を、僕の本性を少しでも知る君は是が非とも僕の友人……そうだね、ここは信頼を築く為にも君を僕のへ入れてあげよう。そこから将来の側近として死ぬまで働いて貰うよ」


 いや、間違いなくその親友枠と言う言葉で私へ首輪をつけていますよね。


 綺麗で可愛らしい……誰もが殿下を見れば天使だと思うだろう整い過ぎる容姿がだ。

 にっこりとほほ笑むその笑顔が何とも恐ろしいと思いました。

 この場で……漏らさずに堪える事の出来た自分を偉いと褒めたい!!


「僕の事はと呼び捨てでいいからねルド。君はとても賢いから僕の秘書官になって貰おうかな」


 あ、悪魔……魔王に魅入られた?

 

「変な事を思うのは勝手だけれどね。ルドは自分が思っているよりも表情に出ているから気を付けるといいよ。僕達がこれから相手にするのはこの国を跳梁跋扈ちょうりょうばっこの者達ばかりだからね」


 私は咄嗟に自分の手で顔を覆いました。

 とは言えそこはまだ小さい手なので口元を隠す事しか出来なかったのです。


「でも良かったでしょ。ルド自身が立てた人生設計通りに事が進んで」


「へ?」


「――――この僕がだよ。幾ら君の父上である公爵がねじ込んだ謁見だとは言えだ。何も調べさせずにこの謁見へ応じる暗愚だと思う?」


 いや絶対に思わないし思えません。

 当然私の事を調べさせたのは勿論だけれどもきっとそれだけではありませ――――。


洞察力インサイト……僕の持つ魔力の一つだよ。ルドは観察オブセーヴィングだよね。僕の秘書官に必須な魔力だよ。これからは僕とこの国の為に役立ててでね」


「は、はい宜しくお願いします」


 私は恭しく頭を垂れた。



 はあ完敗です。

 何一つとして私は殿下に敵わない。

 初対面でがっつり抱き込む筈だったのに逆に返り討ちへ遭えばです。

 殿下にとって敵にすらならないだろうこの私を殿下の傍で使うと言って下さった。


 本音を言えば魔王な殿下より少しでも遠く離れた場所で生きる方が私にとって色々と、まあ平凡ではありますが穏やかな人生を送れるのかもしれません。


「さあ今度は僕の剣と盾となる者でも探そうかな。ねぇルドも一緒に探してくれるのだよね」


 真っ直ぐに私の許へと差し出された手。

 先程とは違う明るくも人懐っこい笑顔。


「はい、殿下」


 私は乞われるままに彼の手を握り返していました。

 多分これから何度も今日の日を後悔をすると思います。

 ですが私はもう魔王な殿下に魅入られてしまったのです。

 

 逃げる事が出来ないのであれば前へ進むしかないでしょう。

 そう殿下の仰った様に色々と問題はありそうですが私の人生設計に沿った形となったのです。


 きっと殿下とならばハラハラドキドキな人生を送る事になりそうですが、これも我が人生と受け入れる事にしましょうか。


 



 


 




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