第10話  側近Rはコミュ障気味

 初めましてと言っておきましょう。

 私はランブロウ公爵家が次男、レジナルド・フィリックス・アルドリッジと申します。

 そしてまだ10歳と言う若輩者ですが、物心つく頃より一人称はです。



 ええ先程の脳筋馬鹿と同じくカール殿下の側近……彼は護衛騎士で私は未来の王太子付きの秘書官的なポジションでしょうか。


 本来ならば宰相の椅子も考えたのですけれどもね。

 何と申しましても現宰相閣下はもうご高齢、次の椅子を狙うには余りに時間がありません。

 いえもう次の御方がいらっしゃるとわかった時点でそこはさっくりと諦めましたよ。


 人間何時の世も引き際が肝心です。


 その次期宰相閣下となられるであろうフォーゲル伯爵は物腰が柔らかで如何にも草食系の穏やかな人物に見えますけれどもね。

 ですがあの御方は殿下や僕に通じる闇の部分を、まあ僕達が子供で……いえ殿下は別格ですね。


 何と申しましてもあの御方は色々な意味で大人顔負けに闇を抱えるだけではなく病んでいらっしゃる。


 しかしながら何も考えず無暗にその闇へ愚かにも触れる馬鹿が傍におりますからね。

 何時も完膚なきまでで且つ見事な返り討ちに遭い一人折れた愛剣を抱いて泣いている姿を見ては、心の中で密やかに愉しませて貰っています。


 これで何本剣を折られているのでしょう。

 

 ああ話が少し逸れましたね。

 そう伯爵は大人である分抱えているだろう闇は膨大で、彼の大切な愛娘であるご令嬢を殿下が見初められ婚約者へと所望された際には……ここだけの話ですよ。


 流石の私も肝を始めて冷やしました。

 いやあれは子供相手にする態度ではないですね。

 それと共に……あの時点で陛下と伯爵の立ち位置を垣間見えたのもありますが、伯爵の後を追って入室された陛下もその様相に一瞬で縮み上がっておられたのが手に取る様に分かりました。


 はあ、一国の主がそれでいいのか……と多少不安に思ったのはここだけの秘密です。


 まあ優秀な人材がいるので国は安泰なのかとも即座に理解が出来ましたけれどね。

 しかしそんな伯爵と対峙される殿下は何時もと何ら変わる事はなく、また堂々とその御姿は最早一国の主に御座いました。



『伯爵には悪いけれどってそこまでは思っていないけれどもね。貴殿の大切な愛娘であるクリスティーネ嬢を貰い受けるよ。そして僕の唯一の妃とする』

『ほう、我が娘を所望と申されますか。お目が高いと褒めて差し上げたいのですが我が伯爵家と致しましては等とは申す事が出来ませんな』

『まあ伯爵の思う事はわからなくもないよ』

『ならばこの話はなかった事――――』

『それは駄目。令嬢は僕のものだからね。僕以外の者に彼女を譲る事なんて出来ないし一切認めない。伯爵がどう思おうと僕は自分で決めた事は貫かせて貰うよ』

『娘がそれを望まない時は……』

『クリスティーネ嬢の意思の前に、僕が彼女を所望している。この命を懸けてね。そして彼女の心をこれから時間を掛けて僕の方へと振り向かせて見せる』


『……彼の家はどうするお心算で?』

『ちゃんと考えているよ』

『ならば見せて頂きましょう。それまでは殿下の

『くっ⁉』

『これだけは譲れませんな。私と妻は娘を愛しておりますので。どこぞの毛が生え揃ったばかりの小僧に託せる程の信頼関係もありませんからな』


『ディート!! も、もうそれくらいで……』


 殿下と伯爵よりも陛下の精神の方が激しく崩壊しかけていますね。

 そしてそんな陛下を憐憫の眼差しで見つめられる殿下と伯爵。

 ある意味これはこれでかなりのシュールな光景です。


『何を言うかと思えばアルフォンス。抑々そもそも殿下は君の息子でしょう。君がしっかりしないからリアや殿下に何時も舐められるのですよ』


 何気に陛下を今ディスりましたね伯爵。


『お、おいっ、幾ら何でも――――ってそれを子供達の前で言うなっっ』

『おや失礼』


 真っ赤になって反論する陛下と小首を軽く傾げ両肩を竦める伯爵。

 絶対にとは微塵にも思ってはいらっしゃらないのでしょうね。

 


 普段はこんな物騒な物言いをされる事のない穏やかな気性の御方と窺っていたのですが、どうやら僕の早合点だったようです。

 そして陛下の威厳は全く感じられません。


『――――わかった。だから父上もここで伯爵と漫才をしないでくれないかな』

『か、カールま、漫才って……』


 父は悲しいぞとか何かぼそぼそと陛下が呟いておられます。

 その横で伯爵がと、きつい一撃を陛下の腹へとぶち込んでいますね。

 

 本当に色々な意味で容赦のない御方なのだとしっかり理解しました。


『ただ少し時間が欲しい伯爵。貴殿が納得する形にしたいからね』

『わかって頂けて何よりです』

『いや未来の義父となる人だからね』

『おや、そうそう我が娘はこの国でも一番可愛らしいのですよ殿下。貴方の言うその時間が一体何時までなのかは存じませんがいえ、私にしてみればどうでもいいのですよ。ですが何時私の眼鏡に適う若者が現れ、また娘もその若者へ好意を抱いた時にはどうか未来の一国の主として静かに身を引いて下さればよいだけなのですから……』

『……おや、最近伯爵は目の調子が悪い様だね。伯爵にとって僕はそこらにいる者と同格若しくはそれ以下と見ているのかな?』


 火花が、伯爵と殿下の間にバチバチと火花が散っています。


『いえ、ただの戯言ですよ殿下』

『ならよかった』


 そうして伯爵が陛下によって半ば強引に退出される直前でしたね。


『ただし趣味嗜好は人によって違うものです。娘も殿下のお心と全く同一ではないと申し上げたかったのですよ』


 そう言って嫣然と微笑みながら伯爵は変な汗を多量に搔いておられる陛下と共に退出されました。

 まさにあれこそがと言うものですね。



 殿下はそのあと少しだけ常とは違い悔しそうな表情をしておいででした。

 それもほんの微かなものでしたけれどもね。


 ですが私はサイラスの様にお馬鹿な発言や他の者の様に気の聞いた言葉を知りません。

 なので僕は少しだけですが先程の陛下と伯爵の関係が羨ましいと思いました。


 因みにサイラスは殿下と伯爵のやり取りに極度の緊張でパンツを変えに部屋を出て行きました。

 ああ、広範囲な失禁まではしていませんよ。

 ただ少しちびっただけです。

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