第9話 側近Sは主の心の変化に追いつけない
あれからあのガキ……いやカールの正体がちゃんと理解出来たかと言うかな。
騎士達の背後にいたもう一人のクソガキが、こいつもまたカールよりもま、まあまだあいつの方が人間だな。
色々な意味で……。
『この様な簡単な事にすら気が付かないとは先が思いやられます。殿下今一度再考を進言します』
あの時のあの言葉だけは未だに忘れられねぇって言うか、大人以上にスカした奴らと生涯を共にしなけりゃいけない我が身を呪ったわな。
そうして会場へと戻れば既に選考は終わっていて……いやもしかしなくとも最初から決まっていたんじゃねって俺は今も思う。
だけどそんな俺にカールは……。
『いや、候補としては挙げていたけれどもだ。僕の側近として相応しいかは直接会って話してからに決める事にしていたからね。だからあの時お前が僕の手を取った瞬間に決めたのだよ』
何があろうとも目の前の、主君となる者へ迷う事無く命を捧げるだろうってね。
俺と同じ5歳児のクソガキ……いやいや王子殿下にそこまで言われちゃあね。
そしてこんなガキの俺をそこまで――――って、毎日を強い騎士に憧れながらも能天気に遊び暮らしていた俺だけどさ。
本物の王子様にそこまで言われちゃ何か、こうガキの癖に……いやガキは関係ないな。
俺達は産まれてたった五年しか生きてはいなかったけれどもさ。
少なくともカールはその五年を無駄にただ普通のお子様として生きてはいなかったって言うかさ。
まああいつはこのリーネルト王国のただ一人の世継ぎの君だ。
俺とは違う色々なもんを幼い頃より背負っているのだろう。
だから5歳児だった俺はいっちょ前の男の様に思ってしまった訳だ。
俺は生涯をこいつの剣となり盾となって生きていこうってね。
ただあの時はその、勢いって言うかな、その場の雰囲気ってあるじゃね。
そうこうして日々一緒に過ごす時間が増えれば増える程に、何故なのだろう段々奴は人間ではなく魔王なのだと齢10歳にして思い知らされている。
決して何物にも動じない。
また覇者として他を圧倒する破棄を常に纏っている。
それは俺達の様な子供だけではなく大人達までも自然と屈服させてしまう何かをカールは持っている。
そして5歳の頃も感じたが身体が成長する様に心は益々冷徹と冷酷の鎧を纏っていく。
もっと人間らしく、少しくらい10歳の子供としての感覚を持っても俺はいいと思うのだけれどもな。
そう思いつつ俺は日々カールの護衛騎士となるべく鍛錬を積み重ねていた。
純粋にカールだけを護る為に爵位の継承なんぞ要らないとまで思う程にな。
まあ元々俺の性格ではにっこり笑って社交やちまちまとした領地経営なんぞ向いてはいない。
騎士として己が身一つで生きていく。
ただお願いだから魔王なんぞにならずせめて人間になってくれよ……って思っていた時だった。
そう全ては王妃様主催のお茶会の席で見たピンクのふわふわ小動物の存在がカールを人間?
いやいや魔王よりももっと凄い奴って何だろう。
悪魔……は魔王よりも下だな。
じゃあ天使、いやいや完全にキャラが違うって。
王の次は……か、神か!!
カールはついに齢10歳にして魔王から魔神へと変化したのか!?
だがカールの様子を見れば魔神という言葉の響きは酷く納得が出来た。
ただ傍にいる者にしかわからないだろう若干の表情筋の緩みがはっきり言ってキモっ。
そう思った日の夕方に悲劇は訪れた。
俺の愛しい剣が真っ二つに折れていたのだ。
剣を抱き締め凹んでいる俺へ――――。
『使い過ぎでポッキリと折れたのかもしれないね』
いやいやこれはまだ誰も切った事がないって言うかよ。
10歳児に人を切らせる大人何ていねえだろうがっっ。
それに我が国は現時点では平和だろう!!
そうして半泣き状態で剣をよく見れば折れた部分と言うかだ。
剣全体が氷の様に冷たい。
きっとこれは凍らせて……氷属系はカールの得意魔法の一つ……だよな。
『サイ、口は禍の元だと言う事を知った方がいいよ』
にっこり嫣然とほほ笑むカールに俺は思わずカッとなって言い返したんだ。
『別に俺は言葉に出してお前の事をキモいって――――⁉』
『語るに落ちたね』
『本当に救いようのない愚か者ですね』
これが親友へ向けれる言葉なのだろうか。
まあ確かに俺も……と言った事は悪いと思う。
でもな、その反面あのピンクのふわふわのお蔭で人間らしいと言うか更にパワーアップしたと言うのだろうか。
どちらでもいいけれど感情が……ってお前、それは流石俺でも引くよ?
クリスティーネ嬢より半ば強引に毎日手紙を書かせてはだ。
朝昼夕と一日三回同じ内容の手紙を何とも言えない表情でってあれは相当嬉しいのだろうな。
何度も読み返してはちゃんと奥の隠し引き出しへと閉まっている。
おまけに以前彼女が可愛い嫌がらせをした蓑虫の抜け殻は何故か黄金で作られたケースにきちんと安置されている。
そう、今はその蓑虫の抜け殻を見て僅かにニヤつけばだ。
『一日も早く僕の腕の中へ堕ちて来ておくれ、僕の愛しいクリスティーネ』
うっとりとした表情でそれをじーっと見つめている姿は中々にシュールである。
そしてカールを慕う令嬢達はこれ程までに彼の令嬢を想い病んでいるだろう奴の本性を絶対に知らないと思う。
俺はまだ異性に対し好きな気持ちなんてわからない。
だからカールの気持ちもはっきり言ってよくわからない。
『だから何時までもお子様なのですよ』
はん、そう言うお前はどうなんだよレジナルド。
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