第6話  悪役ならぬ毒にしかならない令嬢アロイジア

「一体何時の間に……」


 私は受け取った報告書を読み終えればである。

 皺くちゃになるくらいギュッとそれを握り潰していた。


 ああ別にこれはいいのよ。

 何故ならこれは何時も読み終えれば直ぐに燃やすのですもの。


 所謂証拠隠滅って奴ですわ。



 ふふ、初めまして。

 私はこのリーネルト王国でも屈指の名門ゲルラッハ公爵家が息女アロイジア。


 そして我が家紋は昔から多くの妃を輩出した家。

 また私自身未来の王妃となるべく物心のつく頃より厳しい妃教育を受けているわ。

 ええ、それは勿論我が王国においてたった一人の王子殿下であられるカールハインツ様の唯一となる為だけに……ね。


 そう彼の隣に立つ為ならばどの様な苦労も厭わない。

 また数多いるだろう候補となる令嬢達を完膚なきまでに蹴散らす事も平気で行えてよ。


 だってそうでしょ。

 カールハインツ様は生まれもだけれどもその輝くばかりの麗しい容姿だけではなく幼い頃よりとても優秀な御方なのですもの。


 天は二物を与えないと言うけれども、カールハインツ様にだけは何物もお与えになられている。

 まさに神にも愛されし至高の御方。


 そんな御方に相応しいのはこの国広しと言えど私しかいないでしょう。


 何故なら私の身体に流れる血筋もだけれど家柄、それに加えカールハインツ様と釣り合えるくらいの美貌に賢さ、未来の王を補佐するべくとして私はあらゆる事を貪欲に学んでいるの。



 まあ流石にカールハインツ様にはどれも及びはしないでしょう。

 でもそこいらにいるだろう雑草令嬢達には負ける事なんてありませんわ。

 この国においてあらゆる面で未来の王太子妃として相応しいのはこの私――――アロイジア・フリーデ・アンハイサーしか存在はしない!!


 万が一雑草が増える若しくは駆除をしたとしても懲りずにまた私の美しい庭へ無礼にも蔓延はびこるのであらば、私はあらゆる手段を用いて根絶やしにしてみせましてよ。


 なのにっ、配下の者へ愛しいカールハインツ様が何時の日か無事に私の美しいお庭へ入って下さる様に見張らせ見守りをさせていればよ!!


 最近甚くご機嫌なご様子であると報告を受けて安心していたと言うのに!!


 あろう事か今までノーガードのちんちくりんと接近しつつあるですって⁉


 然も王妃様までもが賛同していると実しやかな……いいえっ、あの王妃様ならばあり得なくはない。



 これまでに私が如何にカールハインツ様をお慕い申し上げていると申し上げてもよ。

 何時ものらりくらりといえっ、王妃様主催のお茶会には必ずカールハインツ様をお呼びになられるからと喜び勇んで出席すれば、何故か出席をする毎に増えているだろう婚約者候補の雑草令嬢達。


 家柄だけではなくその容姿や何もかもがパッとしないどうでもいい雑草。

 

 私以上……まあ敢えて言うならばそれに近い雑草以上の花以下である令嬢達には早々に潰してしまったのは私と私の家である事に間違いはない。

 だからと言ってお茶会へ数合わせの為に揃えたとは言え、どれもこれも雑草ばかりでは……ああ王妃様そうなのですね。


 これはわざとお揃えになった者達なのですね。

 ふふ、ええその意味はお話にならなくともわかりましてよ。


 そうですわね。

 この様な雑草の中に一際……然もたった一輪だけの美しい大輪の薔薇が咲き誇っておりましたら、幾らシャイなカールハインツ様と言えどもこの私の存在に気付いて下さると言うものですわっっ。


 だからこの雑草達は私の引き立て役の為だけに呼ばれたのです。

 如何に私が素晴らしいかを王妃様主催で行ってくれたのです。

 流石未来のお義母様ですわ。


 そう思っておりましたのに。

 思い込んでおりましたのに。

 いえ、幻ではなく昔から王妃様は事ある毎に私へ厳しかった。



 ほんの幼い頃よりお父様にお願いをしては連れて貰っていた王宮。

 美しく咲き誇るバラの庭園で私とカールハインツ様は出逢ったの。

 真っ赤なバラの花びらが舞う美しいお庭で私は木陰で本を読んでおられるあの御方と運命的な出逢いをしましたの。


 3歳の頃だったわ。

 そしてカールハインツ様は5歳。

 

 初めて男の子を見て美しい――――と思いましたの。

 そして同時に何としても手に入れたいとっ、私へ振り向かせたいと思いましたわ。



『ねぇなにをよんでいるの?』


『おしえてくれてもいいのではなくて?』


『わたしはアロイジア。こうしゃくれいじょうよ。あなたはだれ?』


 何をどれだけ質問をしても決してお顔を上げる事もなければ視線を絡ませる事もない。

 そしてお声すらも聞かせて――――。


『……邪魔。煩いから僕は行くね』

『あ、まって!! わ、わたしも――――』


 その後直ぐに持っていらした本を閉じれば行ってしまわれた。

 勿論直ぐに私も追い掛けましたわ。

 でも運悪くお庭で私は転んでしまい……。


 転んで擦りむいただろう膝が痛くて悲しくて、振り向いてもらえない事に腹立たしくて私がその場で泣き出そうともあの御方は振り返る事なく去ってしまわれた。

 そうして此度も?


 此度もまた私を見ずに……いいえ!!


 高が5歳のちんちくりんにカールハインツ様を渡してなるものですかっっ。

 ええ絶対に!!


「ねぇお父様はいらっしゃるかしら?」

「はい、執務室で執務を行っていらっしゃいますお嬢様」

「そう、ではアロイジアが話をしたいと伝えて頂戴な」

「はいお嬢様。少々お待ち下さいませ」


 そうして侍女が部屋を辞していく。


 ええ此度こそは何があろうとも私を見て頂きましてよ。

 お待ち下さいませカールハインツ様。

 貴方様にはこの私しかおりません事をよぉくご理解して下さいませ。




 


 

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