第5話 王子様の拗れ具合について Ⅴ
母上がまたもぶっ飛び発言……まあ今回はその案に僕は大歓迎だよ母上。
そう何時もの如く母上は僕とクリスティーネ嬢との婚約をぶっこんで来たのだからね。
ただ事が事だけに幾ら仲の良い親友と言えどもだ。
些かショックが大き過ぎてその場でどうする事も出来ずに固まったのは母上の親友であるフォーゲル伯爵夫人。
彼女は次期宰相夫人となる女性。
この様に見事なまでに顔色を失い気絶しても可笑しくないくらいにフリーズしていると言うのにだ。
僅かに残った母親としての心が膝の上でちょこんと座っているクリスティーネ嬢を落とすまいとしっかり抱き締めていたのは凄いと思ったね。
そんなクリスティーネ嬢は何も知らないし聞こえない……いや、関心がない体を貫いているらしくもぐもぐとマドレーヌを食べているけれども若干表情が引き攣っているのは決して気の所為じゃないよね。
また何も知らない振りでやり切ろうとしているのかと思えばだ。
このカオスと化したお茶会を早々に終わらせるべくクリスティーネ嬢はどちらにも当たり障りのない方法を瞬時で選べばそれを行使した。
「わああああああん、おかあ、えぐ、てぃーねもう、おうちにかえりたいよぉぉぉぉ」
ふふ、流石だよ。
確かに幼子特有の大きな声で泣き出されればである。
このお茶会はもうお開きにするしか方法はないからね。
おまけに婚約の件に関しても母上への返事は自動的に後日以降となる。
愚図り出す幼子相手に母上自身自分の意見を押し通す様な愚かな真似はしない。
何と言っても本当の意味で心を許す事の出来る数少ない相手だからね。
いい時間稼ぎをしたね。
でも生憎僕は君を逃がす気はないなぁ。
だってこんな面白い女の子は初めてだから――――⁉
そう僕は見てしまった。
そしてそれを行っているだろう彼女と目が合ってしまった。
この場を辞していく伯爵夫人に抱かれながらも必死に泣き……そう嘘泣きをしつつ自身の唾を瞳へ塗りたくればだ。
ああ、あれは涙に見せかけたかったのだろうな。
あははは、こんな愉快な事はない。
それと同時にその必死さと見つかってしまい狼狽えるその姿に目が離せないと言うか釘付けだ。
また心が、そんな彼女を想うだけで甘い疼きと何とも言えない温かさに支配されていく。
『お母様を世界で一番可愛くて護ってあげたくなるのだよ。リアは俺の命そのものだ。リアを護る為ならば国なんてどうでもいい。まあこれは国王としての言葉ではなく一人の男としての決意だな。だから俺達の子供であるお前にもきっと何時か現れるよ。今でなくな。何時かきっと最愛の女性が現れる』
ずっと昔父上より聞いた話がフラッシュバックの様に思い出された。
何時も母上にやり込められても笑って、誰よりも幸せそうな父上を不気味に思った事はまだ話してはいない。
でも今ならば父上の気持ちがわかる。
何故なら僕もちゃんと出逢ったからね。
僕の唯一で最愛の女性。
何を考えそしてどう動くのかなんて全く予想出来ない所は母上とよく似ているのかもしれない。
でもきっとクリスティーネ嬢……僕は君を手に入れてみせる。
またその為ならば何でもしてみせるよ。
そうして僕は最後に最近受け取ったばかりの手紙を見て思わず笑みを浮かべてしまう。
「蓑虫ね。このくらいの嫌がらせはまだまだ僕の想定内だから幾らでもするといいよ僕の大切なお姫様」
そう僕は知っている。
クリスティーネ……君がまだ僕の事を好きではない事をね。
でも僕達はまだまだこれからなのだと思うよ。
一先ずは七年後の僕の立太子の儀式迄には婚約をする事にしようね。
それまでにきっと僕の事を好きになって貰える様に色々頑張るから……。
どんなに嫌がって足掻いたとしても僕は君を諦める心算なんてこれっぽっちもないからね。
覚悟しておいてね僕だけのお姫様。
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