第3話  王子様の拗れ具合について Ⅲ

 今日も僕は朝一番に愛する僕だけのお姫様から贈られた愛情の籠った手紙ラブレターを読んでいる。

 これは最早僕の生活の一部と言ってもいい。

 いや、これを読まずして僕の一日は始まりはしない。



『きょうはお母さまといっしょにおにわをさんぽしました』

『お父さまときょうもあえていないです』

『きょうからコリーとしばらくいっしょです。とてもかわいいです』

『コリーときのうおにわでピクニックごっこをしました。とてもたのしかったです』


 コリー?

 犬……ペットなのだろうか。

 まあ僕の愛しい姫がご機嫌なのは何よりだと思う。


 だが名前からしてである事は間違いない。


 高が犬、されど犬。


 僕の可愛いあの子の愛情を一身に受けている何て万死に値する。

 いっその事影達へ指示を出せば彼女が寝ている間を狙って密やかに殺ってしまおうか。

 そうして悲しんでいるだろうクリスティーネ嬢の許へ僕が選んだ可愛い

犬……子犬をさり気なくプレゼントをするのもいいな。


 ではそうと決まれば……僕は愛する彼女からの愛しい手紙を引き出しの奥にあるもう一つの引き出しへと丁寧に元の形へ折り畳めば、入っていただろう封筒の中へと入れた後国宝を扱うが如くに丁寧な所作で以ってこれらを片付けていく。


 この奥にある隠し引き出しは僕だけが知るカラクリ仕掛けとなっていて、勿論魔力認識とを入力しなければ開く事はない。


 

 それにしてもこの僕が恋をするなんてね。

 然も相手はまだ5歳。

 手紙の文面から見ても幼さが隠しきれない……と言う訳でもないな。


 クリスティーネ嬢は確かに愛らしくも可愛い5歳の女の子。

 だがほんの僅かだが時折5歳に見えない所がある。

 

 そんな彼女と出逢ったのは母上の開くお茶会だった。

 何時もの様にまたアロイジア達雌牛の群れが突進してくるのかと、半ば辟易とした思いを抱えたまま庭へと向かったのだ。


 本音を言えば行きたくはない。

 だが母上を怒らせると後が色々とややこしい。

 我が王家のトップは父上ではなく母上である事は間違いないだろう。


 そう父上の頭上に輝きを放つ王冠ははっきり言って張りぼてだ。



 建前だけの国王。

 いやいや仕事は出来る方だと思う。

 そして幾ら母上と言えど愚かな振る舞いはしない。

 そこは元公爵家の令嬢故に妃教育だけでなく、本来母上もまた優れたる人物だからな。

 表立って政には口を挟まないが裏では相当暗躍している筈。


 そして今母上の最大なる関心事がについてだろう。


 事ある毎に母上は何時も俺の斜め上を遥かに突き抜けた行動をするから色々不安なのだ。

 そんな母を父上は愛らしくも可愛いと言う。


 確かに顔の造りは悪くはない。

 でもそれだけだ。

 俺は母上のお蔭で物心のつく頃より色々と苦労をさせられていたのだからな。

 特に精神面の!!


 それ故に妃に望むとすれば母上とは違う大人しい性格の令嬢がいい。

 加えるならば国の益となる者が好ましいな。

 ああ、最後にこの俺を縛り付けない者がいい。


 これらを満たせば後はどうでもいいね。

 見目も身体も特に気にしない。

 子供さえ生す事が出来る女性であれば――――ってそれこそ分からないか。


 先ず子を生すのは何も女性だけにその資質を問われるものではない。

 男である僕自身の子種が絶対に有るとは言い切れないしな。

 ともあれあの日はそんな事をつらつらと考えつつ庭へと向かえばである。


 最初に視界に入ったのは母上の親友であるフォーゲル伯爵夫人と夫人の膝の上で可愛らしくお菓子を食べている……小動物かっっ⁉


 

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