第15話  伯爵令嬢と可愛い仕返し?

 この世界には魔法が存在する。

 うん、これは前にも話したよね。

 そして当然の事ながら通信手段へ魔法を用いるのは、特に貴族ともなればそれは常識なのにである。


 何故か私はこうして日々手紙を書いていた。

 

 いやいやそれは今も現在進行形で!!


 確かにこの国と言うか世界において郵便機関と言うものは前世と同じく存在している。

 何故なら国民全てが魔力……とは言ってもだ。


 そう魔力値程大小様々によって格差の大きいものはない。


 幾ら貴族だからとは言え保有している魔力が人並み以上の者もいれば、それこそ葉っぱ一枚だけを何とか浮遊させるのが精一杯と言う者もこの世界には多く存在するらしい。

 また多くの貴族ではない人達の大半はその魔力自体が存在はしない。

 故に郵便機関は前世同様とても重要なものなのだ。



 さて話は変わり貴族令嬢である私は当然まだ5歳ながらしっかりと魔力はある訳で。

 ひっそりこっそりだけれども何とか独学で魔法と言うものを勉強している。

 だから態々わざわざ手紙を書かなくとも十分通信魔法を行使する事も出来た。

 一方余り関わりたくはない手紙の相手である王太子は勿論王族。

 当然の事ながらその魔力値はうんと高い。


 ここで百歩引いたとして私が魔法を行使出来なくともだ。

 

 王太子から通信魔法を行使すれば事は簡単に済むもので。

 まあ投影越しとは言え顔を突き合わせての会話自体もはっきり言ってしたくはないと言えばそうなのだが、こう毎日手紙を……って抑々そもそも極力関係を持ちたくもなければこの関係を構築もしたくはない相手へ、一体何をどう手紙を書けばいいと思う?


 好意を一切持ちたくない相手へ……と言うか、前世でもこんな手紙のやり取り何てした事のなかった私がよ。

 先ず書く内容が全くわからん。

 一体王太子自身何をしたいのかもはっきり言って理解が出来ない。

 


 そう、ゲームの中では王太子の立太子の儀式を終えた後の舞踏会で私達は出逢い、そうしてお花畑のヒロインは自身のスキル――――を存分に使えばだ。


 最初に軽くジョブ感覚で王太子の周囲にいるだろう見目の良い子息を篭絡すればである。

 うん、摘まみ食いとも言うかな。

 そこからはトントン拍子にそれらを踏み台とし、最終的には王太子の心を射止めた強者だった。


 まあその先からは転落の一途だったけれども……ね。



 だからして今のこの現状が先ずあり得ないし王太子の意図が完全にわからない。

 抑々私はその時まで婚約者候補ではなく、今から五年後……齢12歳にして色々と飛び超えての王太子の婚約者へとなった筈。

 

 まあその点では思いっきり突っ込みどころが満載だと思うけれどもだ。

 私は王太子がちょっとした味変的なロリコンだと認識をしている。

 何故ならヒロインは幼いけれどもその幼さを感じさせない訳ではない。

 でも年齢よりも大人びた大人可愛い系を幼くした感じなのである。



 また私がヒロインへと転生し何が何でもバッドエンドを回避しようとしている様に、この世界もゲーム通りには進んではいないのだろうか。

 それとも――――。


 あ、そうするとバッドエンドがなくなるって可能性も……っていやいやそこはまだ安心をしてはいけない。

 何故ならまだ悪役令嬢と辺境伯が舞台へ登場してはいないのだからね。


 そう凄まじい執着心と極悪非道な彼らの存在を絶対に忘れてはいけない。


 我が身が可愛いのであれば彼らの行動をしっかり把握してから行動を起こさなくては――――ね。



「ティーネ、お返事はもう書き終えましたか?」

「うわっは、はいお母様⁉」


 私は書き終えただろう便箋を綺麗に折り畳めば封筒へと入れお母様へと渡す。

 お母様は封蝋を押して下さるとその手紙を執事へ渡せば私達はメイドが淹れてくれたお茶をゆっくりと飲んでいた。


 そうして今頃は執事の手によって応接室で待っているだろう王宮からの使者が書き立てほやほやの手紙を持って帰路へと着いている所だろう。


 今の話で分かる様に私と王太子との手紙は郵便機関を使用しない。

 いや、奴がそれを使わないし使わせなかった。

 だから一々王宮で忙しく仕えているだろう侍従のおじさんが毎日馬車でやってきてはだ。


『王子殿下よりのお手紙に御座います』


 そう言って恭しく渡せばである。

 私はそれを受け取れば終わり――――ではなく、返事を書き終えるまで侍従のおじさんは応接間で静かに待機している。



 最初こそは書き終えれば私が持って行ってはいた。

 でもひと月もすればおじさんの方より――――。


『お嬢様でなくとも宜しいのですよ。ですが色々と大変ですね』


 等と何故か生暖かい目で見つめながらそう言われてしまった。

 確かに手紙を書くのは面倒と言えば面倒だし、したくないと言えない事が何とも辛い。

 それに侍従のおじさんだってヤギの郵便屋さんじゃあるまいし、毎日馬車に乗って来ているけれどもだ。


 王宮の侍従職ってそんなに暇じゃあないのでしょ。


 全く人の迷惑を何処までも考えない我儘王太子だからこそなのかもしれない。

 因みに今日の手紙の内容についてである。


『きょうはにわの木のえだにぶらさがっているミノムシを見つけました。きれいなのでおうじさまへプレゼントします』


 勿論虫は入ってはいない。

 要するにミノムシのである。

 さあこれを嫌がらせと取るか取らないかは受け取った本人に任せようと思う事にする。


 だってこの程度の悪戯くらい普通に可愛いものでしょ。



 

 

 

 

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