第14話  伯爵令嬢と交換日記ならぬお手紙?

 その夜お父様が帰っていらした時も特に王太子に関しての話はなく――――と言うかよ。


 近々宰相となるお父様の帰宅時間はめっちゃ遅い。

 だから帰ってこられた時もだけれど朝起きた頃にはもういない。

 それでも私がお父様に愛されていると自信を持つ事が出来るのは、夢の住人となっている間にほんの一瞬ふわっとお父様の爽やかなシトラスグリーンの香りと抱き締められているだろう身体に伝わる温もりを感じるからだと思う。


 以前お母様へそれについてお話をした事があった。

 するとお母様は優しい笑みを湛えて仰ったの。


「きっとお父様がティーネを抱き締めているのを夢の中で貴女が感じ取ったのだわ。ふふ、とても素敵なお父様よねティーネ」


 どうやら夜遅く帰ったお父様はお母様に挨拶したその足で私の寝室へ夫婦揃って赴けば、爆睡中の私をそっと抱き締めているらしい。


 そしてこれはお父様曰くお母様と私が足りないから補充をしているのだと言う。

 

 でも父よ。

 それは一歩間違えればめっちゃ怖いんだからね。

 娘だからと言って今の様に幼い時は許されるけれどもだ。

 10歳……12歳までならギリ許すけれどもそれ以上は絶対にやめてね。

 

 しかし今生の私は幼い故なのか一度眠るとかなり深く寝入ってしまうらしい。

 前世では物音一つで跳ね起きてしまったと言うのにだ。

 幾らそっととは言え抱き締められれば普通に起きると思うのだけれども、身体が変わると熟睡度も変わるものかしらん。



 そうして私は翌日、その翌日もずーっと静かに待っていた。


 と言う知らせを……。


 なのに一週間待っても一向に何の知らせは届く事はない。

 それどころか何故なのだろう。

 お茶会の翌日より王太子からの手紙が毎日配達されるのは……。



 最初はお茶会のお礼状なのだと素直に思った。

 だからちゃんとお母様と一緒にお返事を書いたのである。


 問題は翌日から。

 最初は当り障りのない挨拶から始まり昨日あっただろう出来事を、王族故にそこは情報開示が出来る範囲での他愛のない話。


 そう私にしてみればぶっちゃけどうでもいい話なのである!!


 庭の薔薇が綺麗に咲いていた。

 王宮内の森まで騎士達と一緒に乗馬をした。

 剣や魔法の稽古は大変だとか……本当に私にとってどうでもいい内容ばかりである。


 なのに私はと言えばだ。

 一応名ばかりの婚約者候補と言う立場もあるけれどもだ。

 王子様からの直筆のお手紙を頂戴したとなれば即日お返事を書くのは一貴族として常識なのである。


 本当にどうでもいい事に私は何故か毎日付き合わされている。

 私は私の人生において王太子の存在をこれっぽっちも必要とはしないのにである。

 出来れば完全に関係を断ち切りたい。

 しかしお父様とお母様の立場上それも難しいのだろうな。


 そこへきてのこの手紙攻撃ってもしかしなくとも私に対しての新たな嫌がらせ?

 

 え、そうなん。

 この前真っ赤になっていたのを見たからサクッと婚約者候補より外すのではなく、こうやってネチネチと心理的なる弄り……ですか?



 た、確かにこれもある意味私の精神を削っていると言えばそうだけれどもだ。

 これくらいじゃあ別に堪える事はない。

 まあ精神と言うかはっきり言って毎日書きたくもない相手への手紙を書くと言うのが面倒なだけ。


 それにである。

 一番注意しなければいけないのは王太子よりも例の悪役……ならぬ悪女令嬢の存在。


 王太子の行動がバク故なのかどうかと言うよりも、それによっての彼女の反応が一番気になるんだよね。


 何の目的かはわからないがこうして毎日手紙を送ってくると言う事は、少なくとも私が何かしらの関心を引いていると誤解を受けても仕方がない。

 それによって私の身の危険度は果たして今はどの辺りなのかな。


 相手は名門公爵家。

 一方こちらはしがない伯爵家。

 

 睨まれ追い詰められその結果お父様やお母様だけじゃなく他の皆に害をもたらされでもすれば――――って、そこには当然私も入っているわよ。

 兎に角これ以上あの令嬢を刺激しないで欲しい。


 この何処までがゲームでそして何処までがゲームではない現実世界でわからないまま翻弄されるのだけは嫌だ。


 そして一刻も早く大きくなりたい。

 せめて7歳、そう7歳になれば魔法の勉強が本格的に始まるもん。


 今は独学で頑張っているけれどそれも限界と言うものがある。

 だから悪役令嬢と対峙するまでにって言うかよ。

 敢えて希望が通るならば彼女には生涯逢わない一択!!

 若しくはせめて色んな魔法が使える様になってからならいいかな。


 でも叶うならば会いたくないよぉ。


 そして最後になるけれど言うまでもなく婚約者候補より外される事はなかったらしい。


 ちっ。

 

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