第13話 伯爵令嬢とセカンドコンタクト?
「本日はご招待有難う御座います」
「いえ、こちらこそ我儘を申し上げまして申し訳御座いませんわ王子殿下」
「…………」
「お久しぶりだねクリスティーネ嬢。叶うならば私の可愛らしい婚約者……候補の貴女より私へ挨拶をして欲しいのだけれど……」
い、いえいえ出来る事ならば一切口を利きたくはないって。
そして可能ならば私を人間とは思わず決して目には見えない空気だと思って頂きたい。
「まあまあティーネ。ほら淑女らしく王子殿下へきちんとご挨拶をしなければね」
軽く私を窘めるお母様の声。
そう私は広いエントランスでお母様のドレスの後ろへすっぽりと隠れていたりする。
こういう時に身体が小さいとめっちゃ便利だと思った。
しかし現実は何処までも私に優しくはなくて、王太子は隠れている私をそっと覗き込めばキラキラの王子様スマイルで優し気にお願いをしてくるのだ。
「御機嫌ようクリスティーネ嬢。先日もだけれど今日も輝くばかりに可愛らしいね」
はあ、あんたの口先だけ?
いやいや口先じゃあなく紙切れよりも薄くて軽い惚れっぽい性格の男何てゲームだけでお腹が一杯だよ!!
なーんて声を大にして叫ぶ事が出来たならばどんなにすっきりするだろう。
だが現実こいつは私と同じ貴族ではなく王族。
然も単なる王族ではなく、将来この国を支配する時期支配者。
幾ら何でも子供だからと言って暴言は許されはしない。
そしてその一言を発した瞬間――――私の思い描く人生は完全にガラガラと音を立てて消滅するだろう。
また私だけでなくお父様やお母様、ううんこの家に連なる者の人生が完全に形を変えてしまう。
だからここはぐっと我慢をし、怒りで目頭がかぁ―っと熱くなるのをぱちぱちと数回瞬きをする事で何とか誤魔化せばだ。
裾を軽く摘まんでカーテシーをすると共にスムーズ且つ丁寧に挨拶をしようとしたのに何故か……。
「ご、ごきゅげん麗しきゅ……ゴザイマス⁉」
「――――っっ⁉」
か、噛んだっ!!
簡単な挨拶なのに何故か噛んでしまったってやだ、めっちゃこっぱずかしいっっ。
もうそれまで心の中を支配していただろうゲーム内での王太子に対しての怒りのあれやこれ何て何処へやら。
余りの恥ずかしさにうるうると涙が溢れてくるやん。
でも絶対にこいつの前では泣きたくはない!!
そうこんな薄情な野郎の前で私の泣き顔何て見せてやるものか!!
必死に、ふるふると身体が震えようとも絶対に泣かなかった。
うん、私って何気に我慢強い。
この後直ぐに王太子は小馬鹿にした様な嗤いの一つでも、いやもしかして挨拶も真面に出来ない子供等いらないと言ってそのまま王宮へ帰ればだ。
今日明日にでも婚約者候補より外れるかもしれない。
まあそうなればめっちゃラッキーだ。
怪我の功名……的な展開として私は即受け入れるよ。
多少恥ずかしかったけれども明るい未来の為ならば、これも耐えて見せようと思ったのだが……。
嘲笑を覚悟していた。
――――からの叱責の言葉があってもいいかとも思っていた。
「殿下?」
恐る恐る王太子を気遣うお母様の遠慮がちな声。
そこで初めて私は顔を上げ前を見た……!?
あり得……ない。
そして全く以って考えられない。
うん何処にその要素があったのか、私には皆目見当がつかないよ。
そう王太子は片手で顔を覆い隠せば思いっきり私から視線を逸らせていた。
だが私が5歳ならば相手は10歳の子供である。
うんまあ顔を隠すには些か手の大きさが……って全然足りてないじゃん。
だからそのはみ出た顔や耳だけでなく首までもが熟れたリンゴの様に真っ赤になっていたのである。
然も身体は完全にカチコチと固まっていた。
何故?
そうなる理由がわからない。
でも何時までも王族をエントランスにいる状態――――って
ここには私達三人だけではないのである。
先ず王太子側には将来の側近候補だろう奴と同じ年頃の男の子が二人と二名の護衛騎士。
そしてこちらは今屋敷にいる厨房を除いた使用人全てが王子様のお出迎えと言う名目で綺麗に両端に分かれ勢揃いをしている。
つまりは衆目の中での出来事で、言ってみれば先程の私の失態と今の王太子の状況はしっかりがっつり皆に見られていると言う訳である。
そうして何とか始まったサロンでのお茶会。
先程まで余裕綽々だった王太子は何故かだんまりだし、私は最初からに加えてのアレだからね。
そこは普通に会話が弾む訳もなく、お母様と男の子二人が何とか盛り上げようとしてはくれたのだが結果約小一時間でそれは終了となった。
「殿下、どうかお気を付けてお帰りになって下さいませ」
「今日は貴重なお時間を有難う御座いました」
「う、うん有難うクリスティーネ……嬢」
それだけを言うと王太子達一行は馬車へと乗り込んでいく。
こうして帰路へ着く馬車を見て私は思ったのだ。
もう絶対こないでよね。
めっちゃ迷惑なんだからさ。
と思いつつ婚約者候補より外れる事を期待していたのであった。
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