第12話  伯爵令嬢と将来の為のお勉強あれやこれ

「ティーネお嬢様、ここまではご理解頂けましたか?」

「はい、りかいできましたせんせい」


 そう私は現在お勉強中である。

 とは言え内容は余りにも簡単過ぎる故にかなり物足りない感は否めない。


 それはそうだろうな。

 先生は普通に5歳児にとって必要な教育をしているだけなのだ。

 ただそれに対し私が世間一般的な5歳児ではなく、前世アラサーのおっさん化女子の記憶がしっかりとあるだけなのである。


 またこの世界の言葉や文字に関してはと言うものなのだろうか。


 不思議と、まあそこは物理的に自分で動く事が出来る様になってからわかったのだけれども、どの国の言葉でも普通に日本語として読めるし文字も書く事が出来たのである。

 僅か2歳にして文字の読み書きが出来ると知った両親は大層驚いたと同時に大喜びだったのだけれどもだ。

 何も不正と言う訳ではないけれども天才になりたい訳ではない。


 私の望みはあくまでも世間一般的な普通の幸せな生涯を送る事。


 なのに天才等と持て囃されでもすれば私の望む人生とは大きく外れてしまうだろう可能性が生じてしまう。

 だからあれは偶然なのだと、そう両親達へ必死にアプローチや読めない振りをした結果現在は普通の5歳児としてガヴァネスに従いただ今お勉強中なのである。



 そう、よくあるあるのお花畑なヒロインルートを突っ走る訳にはいかないのだ。

 とは言え王妃様の望む様な王太子妃ロード何てものはギロチン台直通ルートにしか思えないし、そこは何があっても避けたいのである。


 私が望むのは堅実で慎ましい人生。


 出来ればそこへ一服の清涼剤的な、美味しいお酒と摘まみを求めてこの世界を旅していきたい。

 前世では社畜となって働いていた。

 でもその社畜生活の中で飲むキンキンに冷えたビールと摘まみは極上の御褒美だったのである。


 今生においても社畜とまでは言わない。

 そこは貴族令嬢らしくちゃんと義務と責任は全うする心算。


 でも偶にはだ。

 キンキンに冷えたビールは無理だけれどそれに近いお酒を探し求めるのを目標として掲げたい。

 その為にもお花畑思考をしっかりと排除すれば、こうして日々勉学を勤しみ己を磨くのみ。



 ただ一つ問題があるのだよ。

 異世界転生あるあるのダンスがね。

 盆踊りなら何とか出来るけれどもだ。

 手に手を取り合っての男女ペアのダンスはちょっと……いや~何とも悲しい日本人気質が邪魔をしてこっぱずかしいと言うかだ。


 同性若しくはお父様とならばまだいい。

 しかし悲しいかな、5歳児と大人との身長差。

 加えてお父様の身長はかなり高い。

 お母様ともぱっと見た目約30㎝くらいの身長差なのである。

 

 はっきり言ってこの時点で大人と子供。

 ならば私とお父様は大人と赤子……なのか?

 いやいや遊園地に必ずあるだろう……それな。


 うんそうだよな。

 お父様と言う支柱を軸にステップを……じゃあなくふわ~っとクルクル回っているんだもんね。


 そして先生と一緒にステップを踏めばである。

 何故か頭の中で炭坑節や東京音頭が流れ出す――――って根本的にリズムが違うし、差し出すステップは何処か盆踊りと化している。


 土台日本人、いや元日本人に西洋風のダンスなんて小洒落たものが無理なのだ。

 身体が、心が受け付けない。

 どの様に先生が親身に教えてくれようともだ。

 微妙に違う先生とのステップ。



 他の教科は特に問題はない。

 出来過ぎずそこは5歳児らしく微調整をしているから大丈夫。

 魔法については7歳になった時に魔力測定の儀式を行ってから勉強が始まるらしい。


 でも私は魔法について知りたかった。

 何と言っても憧れの力だったと言うのかもしれない。

 前世ではあり得ない力。

 そしてこの世界では当たり前の、特に貴族にとっては必須能力。

 

 そう、魔力値の高さによって社交界での立ち位置が決まると言ってもいい。


 これはゲームにはない新たな情報。

 多分この世界独自のルールなのかもしれない。

 高位の魔力を持っている者程社交界……いや、政治の世界でもかなりの発言力を持つらしい。

 そして偶に平民の中でも魔力値の高い者は存在する訳で、そう言う人達は必ずと言っていい程貴族へ叙爵からの王宮勤め=公務員となっている。



 別に政治や社交界に興味はないよ。

 でも自分の身を護る為にも魔法は欠かせないと私は思う。

 万が一悲惨な王太子ルートへ陥った場合、自分の身を護るのは私自身の力だけ!!


 王太子から逃れる為にも、また悪役令嬢から辺境伯への最悪バッドエンドを回避する為にもである。

 魔法だけは絶対に磨かねばいけないマスト能力!!


 勿論騎士として自身を磨く道も考えた。

 しかし前世での私はその方面の能力には恵まれてはいなかった。

 また今生では前世とは違い考えられない程に強くなれるのかもしれない。

 何故なら未来と言う可能性は未知数だからね。


 でも絶対的なものは何処にでも存在はする。


 それが何処にでも存在するだろう男女の力の差。


 これだけはどうにもならない。

 私が女である限りどの様に身体を鍛えようとも男である王太子や辺境伯に勝つ可能性は非常に低い。


 そこで新たな人生を切り開く事が出来るだろう可能性が

 私の場合生まれた時から自分でもわかるくらい魔力値は高いと思うの。

 だからこの力を生かし、私はフラグを見事蹴散らしてみせる!!


 待っていてね、穏やかで幸せな私の人生よ。


 

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