第11話  伯爵令嬢と未来の王太子妃候補?

 それからひと月後王家より正式に婚約者候補の内定の通知があった。

 

 何故?

 何でなん。

 話と全然ちゃうやろ――――って私は心の中で一人セルフ突っ込みをしまくっていた。


 

 話は少し戻り数日前の昼下がり。

 私は既にこの件に関してなかったものとして心の中で抹殺完了としていたのにも拘らずだ。

 

 本当に誰が好き好んで王太子の妃になりたいと思う。

 様々なフラグは連立し、あれは最早ハードル競争ならぬフラグ競争でも出来るかと言うくらいに婚約そして結婚へ至るまでに相当数のフラグが立っていた筈。


 そうして数多なるフラグを超えようやくゴールと言うか結婚まで漕ぎ着ければだ。

 出産と同時に始まる――――いやいや悪役令嬢が側妃として召し抱えられたと同時に始まるであろう転落からのバッドエンドしかない人生。


 その見事な転落ぶりはおむすびころりんじゃねぇって言うのっっ。


 いやいやおむすびよりもえげつないわっっ。


 だからこそあれはバグとして処理をすればだ。

 ここよりフラグ回避の人生が始まるのだと思っていたわけ。

 だってそうでしょ。

 王室は筆頭の悪役令嬢が現段階で多分何人かの候補に挙がっているだろう令嬢達を蹴散らしているんだよ。

 


 我が家は完全中立の穏健派。

 王室派と反王室派の何れにも属さない平和主義。

 誰が可愛い娘を野獣の檻の中へ放り込む親がいる?


 まあ確かにそれぞれのお家事情と言うものがあるだろうから詳しい所までは知らないし知りたくもないと言うかどうでもいい。


 でも少なくとも私の両親は貴族に珍しい恋愛結婚を経ての私と言う子供が生まれたものだからね。

 日本にいる頃……いやそれ以上に溺愛されているのはちゃんとわかる。

 その前に夫婦がラブラブ過ぎて目のやり場に困るっちゃ困るんだけれどね。



 そして当然お父様は即日王宮へ伺候すれば同じ穏健派の宰相閣下と話し合い、事の仔細をつぶさに問い質したらしい。

 すると何故か既に宰相様の方にまで……と言う事は王妃様の夫であられる国王陛下の了承を王妃様はしっかりともぎ取っていらっしゃったのである。


 恐るべし王妃様の行動力。


 だが私のお父様も負けてはいない。

 立場的には宰相補佐だけれどもである。

 王様とは親友同士でありぶっちゃけ今の宰相様とは仕事の引継ぎをしているだけで、その引継ぎが終わればお父様が宰相となられるらしい。


 また学院時代よりお父様と王妃様はお母様を巡って色々ライバル関係だったと言う事。

 それで以って王様は当時の婚約者であり現王妃様にはこの頃より既に尻に敷かれている状態と言いますか、惚れた弱みと言うもので、如何せん王妃様のお願いには弱い。



 そうしてここまで話せばもうわかるだろう。

 王妃様のお願い=にて私は候補から一気に王太子の婚約者へと格上げになってしまった。


 ああギロチン台が目に浮かぶ。

 然も血塗れ……だな。


 そこでお父様は老齢の宰相様を味方へ付ければ親友の王様を色々な意味でぎゃふんと言わせたらしい……って本当にそう言ったのかは知らない。


 そこで完全なる板挟み状態となった王様は助けを乞う相手に実の息子を選んだのである。


『そうだ、俺が令嬢と結婚するのではなくカール……お前の結婚相手だからな。お前が自由に決めて良いぞ。父はお前の意思を尊重しよう』


 等とふざけた展開となったはいいがここで私はきっと断ると思ったのだ。

 何しろ相手となる私はまだたった5歳児。

 然も嘘のギャン泣きをした結果王妃様のお茶会を強制シャットダウンさせたのだもん。


 そうそう記憶の欠片にも残らないお子様5歳児よりもである。

 かなり気性は激しく悪役ではなく完全なる悪女ロードをひた走る彼のご令嬢を選んで下さればいいと思ったわけ。

 なのにである。


『じゃあ僕はこの間のフォーゲル伯爵家のクリスティーネ嬢でいいかな。彼女可愛らしいからね』


 何て事を正々堂々とのたまったのである。

 然も並み居る臣下のいる前って当然彼の公爵も絶賛ド真ん前で待機の中での発言だったらしい。


 当然ゲルラッハ公爵は噛み付いてきた。

 がぶがぶとそれは容赦なくだった。

 瀕死状態の王様はお父様に助けを求めるけれども勿論お父様が助ける事はない。


 流石私のお父様大好き。


 そうして折衷案として出されたのが婚約者から婚約者候補とする事だった。

 王様にしてみればこれがギリギリラインの答えだったのかもしれない。


 何と言っても前門の虎後門の狼状態だもんね。


 どちらがどうと言うのはこの際どうでもいい。

 それが正式に決まった日に帰宅すればお父様は私を抱っこするなり……。


「許して欲しいティーネ。お父様の力不足です。でもその代わりと言ってはあれだけれどね。妃教育は10歳になるまではしないし勿論王宮へも伺候させない。お父様とお母様のいる時にそしてその前で行わせると約束させたよ。本当ならば話そのものを握り潰せばあの愚王を蹴散――――いやいやそれは聞かなくてもいいからね。当分の間時間稼ぎをし円満に候補より外れる様にするからね」

「はい、お父様。わたしお父様とお母様とずっと一緒にいたいの」


 そこでぎゅっとお父様へ抱き着けば、お父様の頬へ頭をスリスリとして見せる。


「……うんそうだね。ティーネとお母様と三人で何時までも幸せに暮らそうね。お父様もその方向で頑張るからね」


 感極まった感じのお父様。

 その調子で頑張って下さいな。

 可愛い娘が人生を全う出来る様に是が非とも協力して下さいね。

 ふふ、私だって命が懸かれば多少なりともあざと可愛く何て事も出来るのだ。

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