第9話 伯爵令嬢と酒を愛する心
屋敷へ戻った私は乳母のイナンナへ預けられればそのままお風呂へ入れられれば、あっと言う間に夢の国の住人となった。
まあね、心はアラサーのおっさん化をしていようともだ。
身体はしっかり5歳児なのである。
初めてのお宅拝見いやいや王宮でのお茶会はかなり体力を消耗させていたらしい。
体力?
それを言うのであれば精神の方がもっと激しく消耗したと思う。
何と言っても絶対に回避したい相手の内一人目とのバグが
普通他人を見た瞬間詰んだ=死を連想させる者は中々にいない。
でも私にとって王太子と悪役令嬢は紛れもなくそれだったのだ。
そして出来ればもう二度と会いたいとは思わないし会いたくはない。
うん、今の所我が伯爵家の子供は私一人だけ……って先ずヒロインに兄妹は存在したのだろうか。
どうも私はモブの存在には余り詳しくはない。
と言うかよ。
ぶっ飛び過ぎるヒロインもだけれど血も涙もない王太子と悪役令嬢からの辺境伯の悪辣ぶりばかりに注目してしまい、はっきり言って他のキャラの印象は非常に薄い。
また転生してからはその辺りの記憶がほぼほぼないと言ってもいい。
でもゲーム自体の内容は一応覚えてはいる。
だからと言ってそれが細部にまでかと言えば些か問題でもある。
何故なら毎晩疲れた身体にほっこりとお風呂でリフレッシュしてからのキンキンに冷えたビールは酒量がそんなに多くはなくてもだ。
どんと重く伸し掛かる疲労感からのお風呂で血行が良くなった状態でのアルコールは身体中の細胞にまでしっかりと沁みていく訳で、摘まみ片手にほろ酔い気分でゲームをすれば、大まかな事は覚えてはいても細かい所までの記憶は御座いません。
等と酔っ払いあるあるの記憶事情をつらつらと並べてもだ。
現状私がこの世界へ転生したと言う事実は消したくても消えてはくれない。
そんな現実逃避は産まれて直ぐ物理的に動けない時間帯に沢山してきたわっっ。
そう今は無駄な現実逃避よりもだ。
如何に天寿を全うするかに尽きる。
出来れば穏やかに、心静かにだ。
また残念な事にこの世界にはビールと言うものは存在しない。
ワインはあるけれども私の趣味ではない。
#抑々__そもそも__#おされ~なワインはあざと可愛い女子の定番な飲み物だろう。
そこへいくとおっさん化した女子が求めるものは一口飲んだ瞬間――――ぷはあぁぁぁからのくうぅぅぅぅっと、じわじわアルコールが身体の隅々へ染み渡る様ながっつりとした酒が飲みたいのである。
その点ビールは何と言ってもお手頃だ。
でも日本酒や芋焼酎や
あーでも昔知人に貰った度数の高い泡盛……それもあれは10年物の
あれは色々な意味でガツンと来た。
ビールの様には絶対に飲めない。
でも度数はきついけれども10年も寝かせた酒独特の円やかさが癖になる味だったよな。
ああ古酒やビールが恋しい。
焼き枝豆も食べたい。
最近ネットで見たガーリックシュリンプならぬガーリック焼き枝豆……今度の休みの日に作って食べる心算だったのに……。
この世界は前の世界にはない魔法なるものが存在する。
本当にメルヘンだ。
そして私には決して似合わない世界。
だが幾ら魔法で便利になろうとも私の欲するものは永遠に手に入らないのだから然して魔力があったとしてもどうでもいい。
だがこの世界の酒にはワインの外にエールと言う飲み物がある。
一応カテゴリー的にはビールの一種かもしれない。
だがビールに必要なホップがこの世界には存在しない。
その代わりにハーブや香辛料を用いて造るらしい……って、少し前にイナンナの目を盗んで図書室で酒について読み漁った知識である。
私は一刻も早く大人になりたい。
そしてこの国のエールを飲んでみたいと言うか飲み歩きたい。
エールはその地方によって味が色々異なるらしい。
まあそこはビールも一緒だよな。
こほん。
とは言え目下の目的は王太子と悪役令嬢との距離を見極め、確実に生き残る事に尽きるのに変わりはない。
でもその目的を達成しつつ人生の愉しみを追求してもよくはない?
何て思いながら呑気に将来の夢に酔っていたのである。
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