第7話  伯爵令嬢と爆弾宣言

「お久しぶりねベティそれからティーネ」

「ふふ、お久しぶりに御座いますわアウレリア陛下」


 今まで抱っこしてくれていたお母様はそっと私を下へと降ろせばである。

 ふわりと優雅で綺麗な所作で膝を折り、カーテシーをしたのである。


 目の前にいるこのリーネルト王国王妃アウレリア・フロレンツィア・ホーエンローエ・リーゼンフェルト様へ変わりない恭順の証として……。


「まあまあ堅苦しい挨拶はなしよベティ。今日は公式なものではなく私は貴女とティーネに会いたかっただけなのですもの」

「王妃陛下……」


 王妃様はそっとお母様の傍へ駆け寄れば優しい笑顔と共にお母様へ手を差し伸べられた。


「だからその様な堅苦しい事はやめて頂戴。今日は昔通り仲の良い親友のリアとベティよ」

「まあ王……」

よベティ」


 悪戯っ子の様な笑みを湛えて王妃様はお母様の顔を覗き込まれる。


「で、ではリア?」

「ふふ、よく出来ましたベティ」

「はあ、本当にリアは何時までも変わりませんわね。学院時代と何もかも……」

「あら、少しは大人っぽくなったでしょ。ちゃんと世継ぎも生んだ事だし誰からも文句何て言わせないわ」

「ええ、昔から……でしたわね。貴女へ一度でも喧嘩を売れば二倍ではなく十倍返しできっちりと仕返しをするのですもの。お陰で私は貴女の傍で何時もハラハラしていましたのよ」


 十倍って、その内百倍にはしないでしょうね。


 そう心の中で密かに突っ込みを入れる私はと言えばお母様のお膝の上で大人しくプリンを食べていたわ。

 もう5歳なのだから一人で座っても大丈夫なのに、何故かお母様だけでなくお父様もだけれど過保護かいって言うくらいに私を溺愛している。

 最初こそはかなり引いたけれどもだ。

 人間と言うものは何気に恐ろしい。

 今ではそれが普通になって何時のだもんね。


 だからと言ってお母様達のお話には無関心の体を貫いている。

 何故なら大人のお話に子供はお邪魔でしょ。

 それに流石王宮だけあって目の前には様々な美味しそうなお菓子が沢山あるんだもん。


 でもここにはキンキンに冷えたビールと焼き枝豆がないのはちょっと寂しいけれど……ね。

 

「ああ私も女の子、ティーネの様に可愛い女の子が欲しかったわ。でもこればっかりは一人では産めないもの……ね」

「リア、でもそれ程までに陛下はリアの事を心配なされておいでなのでは?」



 漏れ聞いた話によれば王太子の出産はかなりの難産だったらしい。

 然もお産の後の出血が多過ぎて一時は王妃様の命も危ぶまれたらしい。

 結局はちゃんと元の元気なお身体へとなられたのだけれどもだ。


 王妃様ラブな王様は『二度と子を生さん!!』と王宮内外へ高らかに宣言したらしい。

 ただ一国の王としてそれが正しい事だとは言い切れないけれどもだ。


 とは言え誰かさんとは違い側妃や愛妾等を召す事もなく王妃様だけを寵愛されるから立派だと私は思う――――って、これも余りゲームとは関係ないものである。

 一体何処までが乙女ゲームで何処からが違う、この世界独特のものなのかが今一わからない。


 そのわからないが故と行動を起こすにはまだまだ幼い身体だけに何もかもが手探り状態。


 いっその事さっさと王太子と悪役令嬢がくっつけばいいと思う。

 そうすれば私の命は自然と保証されるだろう。

 その為にも王宮へは余りより尽きないと言うのに人生とは中々に思う通りに進まない。



「母上お呼びでしょうか」

「あらカール遅かったではありませんか。もう母は待ち草臥れてしまいましたよ」

「それは申し訳御座いません」


 うげげ〰〰〰〰⁉


 何故ここに!!

 どうしてあんたがここに来る――――って抑々そもそもここはあんたのお家で私の方が、まあそこは自分の意志ではないにしろこの場所へ来たのだっけ。


 日の光を受けてキラキラと輝く白金プラチナブロンドの髪と黄金の瞳を持つ私とは5歳違いだから、今は10歳……の割にはもう既に容姿はしっかりと綺麗過ぎるくらいに整った眉目秀麗な文句なしの王子様。


 七年後の成人の儀と同時に立太子をする予定だ。


 そしてゲーム通りならば私と出会うのはその立太子の儀が執り行われる時だった筈⁉

 


 何故この時点で出会うの?

 これは所謂ゲームのバグ?

 それともここはやはりゲームと似て非なる世界なの?


 とは言えだ。

 用心に用心をするに越した事はない。

 出来るだけ穏便に、そう何と言っても私は現在5歳児なんだもん。

 眠いよぅと言い可愛く愚図って涙の一つでも流せばこのお茶会は終わるんじゃね?

 

 そうすれば王太子とも直ぐにさよならで、そしてこれは単なる偶然。

 王太子の記憶にも残らない様にひっそりと愚図ってお家へさっさと帰ろう。


 そう一人でこっそりと計画しそうして実行へと移そうとした矢先の事だった。


「ねぇベティー今日態々わざわざここへ来て貰ったのはね。実はカールの、この子の将来の伴侶について相談したい事があるのよ」

「カール殿下の?」


 王妃様は王太子を自身の傍へ来るようにと視線を送る。

 王太子は理解したとばかりに王妃様よりの、お母様との間へ近づいたっていやいや私の近くへ来るんじゃないっっ。


 王妃様はにっこりと何故か私へ優し気に微笑みかけて下さる。

 そんな私はどうやって泣けばいいのか思案していたのだが、王妃様の視線と微笑みを受けて泣くに泣けぬ状況に間誤付いていればである。


「カールとティーネ。についてお話がしたかったのよ」

「こ、婚……約?」


 流石にお母様も……って私もこれ以上にないくらい十分に驚いた。

 いやいやこれに驚かない人は絶対にいないでしょ。

 普通に王子様との結婚を、然もそこら辺のスーパーで気軽にお買い物みたいな口調で話さないで欲しい。

 そして即刻これを撤回してよぉ!!


 だってまだ5歳で第二の人生を終えるにはめっちゃ短過ぎると思わない!!

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