第6話 伯爵令嬢は呆気なくドナドナされていく
私の母であるフォーゲル伯爵夫人は現王妃様と親友同士である。
ん?
いやいや幾らヒロインの母だからと言ってゲーム内での扱いはモブ中のモブ。
だから私も名前は知らない――――って今はちゃんと知っている。
そう
だから5歳の頃に初めて王宮へ伺候し王妃様とお茶会をすると聞いた時は思わずそんなイベントがあったのかとぶったまげてしまった。
いやいやそれだけじゃあない。
お母様が普通にお一人で王宮へ伺候するのはいい。
5歳の私は屋敷で大人しくお留守番。
抑々別に王宮へ行きたい訳――――じゃなく出来る限り……いやいやここは全力を以って避けたい案件だ。
何故なら私は絶対にゲーム通りのバッドエンドを迎えたくはない。
だからして諸悪の根源でもある王太子の傍には出来得る限り近づきたくはないし、叶う事ならば永遠に出会わない方がいいとさえ思っている。
まごう事なき本心で!!
まあそれは貴族令嬢をしている限り絶対無理な事であるのは早々に理解をさせられる事になる。
ぶっちゃけ王族とは私達貴族階級の者だけでなく、この国全ての者に対しての絶対的強者であり支配をする側なのである。
一方私達貴族は王族を支える臣下……はっきり言えば下僕だわ。
生涯に渡ってのご機嫌取り何て大変過ぎじゃない。
うん、でも王族を怒らせれば最悪極刑フラグがぶすっと音と共に身体をぶっ刺してしまうのだからね。
前世日本にはない、いやいやそれぞれの立場や条件こそは違うけれどもだ。
あの頃の私は鬼畜な社長に仕える社畜な私。
立派に支配者とその下僕関係が成立しているじゃない。
まあその分給料も他の会社より良かったけれどね。
因みにこの世界と言うか国では一般的に17歳の成人を終えれば青年貴族として大人の仲間入りをするまでは、子供達なりの社交と言うものが存在する。
面倒な事この上ないのだけれどもね。
そしてそのヒエラルキーのトップは勿論王族様様だよ。
とは言え各々自分のお家の為、引いては領地で一生懸命頑張って働いてくれる領民の皆さんの為に美味しいご飯と引き換えに、貴族同士の繫がりは幼い頃よりしっかりと構築しなければいけないのである。
先ず王族のお茶会と言う名の社交は基本王妃様の主催で始められる。
挨拶を一通り終えれば徐々に子供と大人へと分けられ各々の社交が始まっていく。
そして当然この中に王太子と悪役令嬢もいる訳で、勿論彼らは私よりも高位の立場にあるから下の立場である私からは声を掛けられない。
ラッキーってそこは素直に喜んでしまう。
皆我こそはと何が何でもお声と言うモノを掛けて頂けばよ。
何が切っ掛けで親しくなれるかなんてわからないもんね。
王族にしろ高位の貴族の子息や令嬢と懇意になれば、自ずと将来へ続く道は明るくなるってもの。
私も一応は……ってそこはまだ5歳だからね。
社交と言うものはまだ出来ない。
精々お母様のドレスの裾を掴んでいるくらい……かな。
いやいや出来得る事ならば王宮へは行きたくはない!!
可能な限り――――って言うかさ、普通は10歳くらいになって一応礼儀作法とか覚えた頃にお社会デビューの筈じゃね?
「さあ私の愛するティーネ。お母様と一緒にお城へ参りましょうね」
「おしろ?」
恥ずかしいけれどもここは舌っ足らずなお子様を演じなくてはいけない。
誰だって命は惜しいもの。
「そうお城よ。お城でお母様のお友達である王妃様と楽しい時間を過ごしましょうね」
「ティーネおるすばんでいい」
やんわりと拒否の意思を示してみる。
私はまだ小さいの。
幼いの。
だからまだお城へ何か行きたくは……出来るだけ王太子と会いたくはないし関わりを持ちたくはないんだってばっっ。
「ふふ、可愛いティーネ。さあお母様が抱っこして連れて行ってあげるわね」
そ、そんなっっ⁉
「ティーネ、うさちゃんとあそびたい」
咄嗟に出た子供あるあるの必殺ぐずり……の心算だったのだけれどもだ。
「じゃあお気に入りのウサギのぬいぐるみも持っていきましょうね」
仕事の出来る侍女によって既に私愛用のふわふわウサギのぬいぐるみを馬車の中へインしてあったのである。
は、薄情者!!
こうして私は馬車で屠殺場へ連れ去られる牛や豚さんの様に王宮へとドナドナされていくのであった。
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