第5話 伯爵令嬢は自身の運命を悟る
あぁところで何故
またどうして件の辺境伯ではなく王太子がラスボスと私が呼んでいるのかと言えばである。
答えは実に簡単であり単純だ。
それは私は彼に捕らえられたからである。
その話の件に関してと言うか内容からの説明は少しだけ長く、はっきり言ってその殆どは私見……つまり何時もの私らしくない言い訳がましいものが多々含まれていたりする。
当然ラスボス扱い且つ王太子と呼び捨てにしているのは私の心の中だけだ。
そう言葉と発してしまえば私の人生はそこで終わってしまう。
話は元へと戻ればまさか私自身転生何てものが現実に存在するとはあの瞬間まで思いもしなかったし、然も転生先は有り得なさ過ぎるだろう異世界。
おまけに
今だからこそ言える。
自分でもこれ以上ないって言うくらいに最初は混乱の日々を送っていたわ。
だってそうでしょ。
何処の世界の人間がよっ。
ブラック企業の社畜同然のっ、散々こき使われ疲れ切った身体を引き摺る様にして乗り込んだ電車によ。
こんな奇想天外なモノは脳内お花畑な異世界転生ものの小説若しくはゲームの中だけなのだとっ、現実主義である私のこれまでの人生と考え方を根底より覆される事になっただなんてもう余りのショックで数年と言うかね。
コホン――――。
そこは現実的にも身体面の成長を要した訳で、真面に言葉を発し周囲との意思疎通が出来るまで一年と数ヶ月……正直に言って異世界転生をしたアラサー女子の第一声があぶぅだ何て赤ちゃん言葉を話す勇気どころか、私にそこまでの強靭なメンタルなんてものは持ち合わせてはいなかったのよ!!
そう最初は何もわからなかったから普通に『ここは何処?』って言葉を発した心算って言うか、いやいやしっかり自分自身ではそう話していたわ。
なのに何が悲しくてよ。
己の発した言葉……って
『あぶぅ?』
――――っっ⁉
その瞬間私の心は死んだ。
瞬間的に永久凍土で心がしっかりと覆われれば、私は今なら羞恥で死ねると断言出来た。
いい大人がよ、赤ちゃん言葉にもならないあぶぅだ何て現実に、私の心はその音声に脆くも崩れ去ったのである。
はあ、現実主義……実際に見たものしか信じないと豪語していた私は何処へ行った。
だがその現実と言うものをこれでもかと突き付けられた私の心はその後暫く……数年単位で浮上する事は無く、周囲がそんな私を見て楽しそうに幸せオーラ全開なのがまた何気に、そう地味にこれが現実なのよってぐさぐさと心へ突き刺してくれたのよね。
そうなると私の精神はガリガリと高速で削られれば最早KO寸前虫の息状態へと陥ってしまった私のメンタル。
故に私は自分自身の置かれている状況やその他諸々の事に対し一切を封印したと言うか、そこは普通の赤ちゃんに徹したわ。
変に自我を持っているから優華だった心が辛いのだと、多分二歳くらいまでは思いっきり現実を逃避していたわね。
でも言い換えれば現実を逃避したからこそ今の私がまだ死なずに済んだのかもしれない。
だがしかしである。
このままでは私は心だけでなく肉体までもそう遠くない未来に完全なる死を迎えてしまうのかもしれない。
いいやっ、現実はいっそ楽に死ぬ事が出来ればどれ程幸せだろうと言う未来しか待ち受けてはいないのだ。
そして何故私が自分の未来を知っているかって?
その答えは簡単。
だってここは私が生前ビール片手にやっていた乙女ゲームの世界と同じ世界だから?
いやいやそこはまだ同一なのだと完全に断言何て出来ないか。
でもこの17年もの間私に係る人物そして私を取り巻く環境から言ってその確率は非常に高い。
だからこそ私は自分の辿る未来が分かる。
そして私は自分の置かれた状況が分かった時点でティーネではなく優華としてこの人生へ抗う事を決めたのよ。
いやいやこれは最初からかな。
転生したのだとわかった時点で脳内お花畑でお馬鹿なティーネは綺麗に封印をした。
だってそうでしょ。
何が悲しくて現実主義の私がお花畑満載のヒロインの真似なんて死んでもやらないからね!!
然もティーネは単なるヒロインポジではない。
乙女ゲームとは名ばかりのかなり辛辣なバッドエンドありまくりの世界。
それだけに体力共に心を疲弊したアラサー女子だった私が、その仄暗さ故何気にゲームを続けていた理由だった。
単なるお花畑のヒロインが幸せになるだけの乙女ゲームだったら私はきっと見向きもしなかっただろう。
これはヒロインもだが悪役令嬢も幸せにはなれない辛辣過ぎるゲーム。
そうこれがただのゲームならばまだよかった。
リセットボタンを押せば直ぐ終わりに出来るからね。
それがまさかこれが自分の人生そのものだとはっきり知らされたのは今より十二年前になるのかな。
そう、
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