第2話  受け入れ難いゆるふわな現実

「はあぁぁぁまさか本当にゲームのキャラそのものって言うか、実物はそれ以上にヤバいわね」



 ふわふわの、昔から夜店に必ず売っているだろう大きなピンク色の綿菓子そのもの?

 いやいや全く重さを感じさせないピンクブロンドの髪。

 然も入念に手入れをされている故なのだろうキューティクルと言うか天使の輪っかが半端ないし、何時まで触っていても飽きないくらいしっとりつるつるな私の髪。

 また私の二つの双眸は本物の宝石かと思うくらいにキラキラと煌めくエメラルドグリーンだよ。


 これって絶対小説若しくは漫画にしかあり得ない色の組み合わせ……だわ。


 顔立ちは――――しっかりと整ってはいるけれどもである。

 そこは私好みのキリっとした孤高に咲く百合の如く絶世の美女と言うものではなく、まあ何と言うべきなのかゲームのお花畑なヒロインらしいと言うのだろうな。

 単に美しいのではなくゆるふわで少し幼さを残した可愛らしい容姿の、おまけに何と手足のほっそりとした華奢な肢体を持ち、それは如何にも男達の庇護欲を十分にそそればだ。

 間違いなく私の、御園優香の精神をゴリゴリと音を立てて削られる様な姿の乙女が、これ以上ないくらい悲愴な面持ちで姿見に映っているだろう自身の姿をじっくりと見つめていた。


 然もである。

 前世の私ならば決してチョイス何てしないだろうペールピンクの可愛らし過ぎるドレスを綺麗に着こなせば、とてもではないが心の中はアラサー干物女ではなく既におっさんと化した現実主義の私が居座っているだなんて、きっとこの世界の誰一人として想像だにしないだろう。



 だがそれにしてもよ。

 この現状を冷静に受け入れている私はある意味とても偉いと思う。

 とは言え電車事故で呆気なく死んでしまったと言う事実が存在する以上そこは済んでしまったものとしてあっさりと諦めるしかない。


 何故なら私が向こうの世界で死んだのは今より約十七年前の事なのだと思う。

 その時間軸については多分の域は出ないけれどもだ。

 今更運よくこの世界より転移が出来て、これまた運よく元の世界へ戻れたとしてもよ。


 私の入るべき肉体はとっくの昔に灰と化し骨しか残ってはいないだろうと言う現実!!


 おまけにきっと両親によって納骨も済んでいるだろうし、今頃は実家にあるご先祖達と一緒に骨は永遠の眠りに就いているだろう。

 今更魂だけがティーネより抜け出し元の世界へ戻ったところで、私の行きつく先は浮遊霊……それも大前提に幽霊と言う存在がこの世にいると実証されればの話。



 とは言え現実主義の私は決してオカルトが嫌いではない。

 夏の、そうお盆の時期に放送されるものは大抵キンキンに冷えたビールと焼き枝豆を片手にぽやんと見ていたのだ。

 まあ所詮あの手の番組は言ってみれば、クソ暑い季節に必要な一服の清涼剤的なもの。

 

 抑々そもそも霊感のない時点で私は霊なるものの存在を信じてはいない。


 そう、現実主義の私が信じるものは全てこの目で見て、確認した上で実証されたものだけ。


 それ以外は信じたくとも……いや~絶対に信じないな。

 うん、これだけは胸を張って自慢出来るよ。


 しかし幽霊もだけれど愛や恋と言った非常に不明瞭且つ不確かで、決して目に見えないものについてもどちらかと言えば信じられないと思う。

 大体愛情何てその場の雰囲気で一気に燃え上がればだ。

 後は静かに鎮火するだけでしょ。


 それが夜空で大輪の花を咲かせれば一瞬に終える花火なのかはたまた地味に落ちそうで中々落ちない線香花火。

 それとも大きな火災に至らずも、やはり静かに燻っているだろう熾火おきびの類なのかはわからない。

 現実的に言えば何かの切っ掛け若しくは周囲の圧力で結婚をし、問題がなければそのままの生活の延長若しくは子供が大人になるまで?

 または空気の様に気にもならない存在か惰性?


 死ぬまでずっとラブラブだなんて、それこそ絶対に有り得ないでしょ。


 何と言っても愛情程この世に移ろい易いものはない。

 だから元の世界いやいやこの世界でも不倫は何時の時代も横行しているのだ。

 第一純愛なるものがあるのならば、抑々不倫なんてものは発生しない筈。


 だからなのかもしれない。

 前世でお一人様いやいや今でもって今は――――。



「お嬢様っ、まだお部屋にいらっしゃったのですか⁉」


 鏡を見つめながら自問自答をしている私へ、息を切らし両肩を思いっきり上下させつつ声を掛ける……ではなくしっかりと叫んでいるのは侍女のヨハンナ。


 ヨハンナは今の世界で私付きの侍女となっている女性。


 私より1歳年上なのだけれどもだ。

 お仕事熱心なのは非常に有り難い。

 でも少々厄介なのは夢見がちな一面があるところ。

 現実主義の私には到底理解の出来ない部分が色々と彼女の心の中には存在する。


 とは言え侍女としてはとても有能なのだよね。

 ただ……そう夢見る少女の部分が何とも言えずイタいだけ。

 それさえなければいいのだけれども世の中そんなに甘くもなければ何でも思い通りにはならない。


「もうお嬢様ってばその様にのんびりとなさらないで下さいませっっ。もう先程よりエントランスで殿よ!!」



 はあぁぁぁ。

 これだ。

 思いっきり頬を膨らませれば然も大事だと言わんばかりに言い募る。

 

 確かに王族を待たせる事は何処の世界であろうと問題なのは間違いない。

 だが私は別に待って……抑々殿下が我が家へ来なくてもいいと思っている。

 然も彼はこの国の第一王子、つまりは王太子殿下で時代の国王陛下となる御方。

 おまけに今現在の私の立ち位置は、私的には絶対に認めたくはないのだが、エントランスにいるだろう殿下はあろう事か!!


 

 何故王太子殿下がラスボスなのか。

 その理由は実に簡単である。

 王太子殿下による断罪からの処刑フラグ。

 誰だって生まれて直ぐに自分自身へ死のフラグが連立して立っているのを見ればである。

 何があろうともそのフラグを撤去したいと願い行動を起こすのは自然の摂理であり当然だと私は思う。


 

 故に私は我が身可愛さにこの数年もの間色々と頑張ったのだ。

 だが現実は何故か私に甘くもなければ優しくはない。

 そう、何故なら未だ私はラスボスを排除出来て倒せてはいないのだからである。

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