prologue  干物を通り越して既におっさんやろ 後編

 あの頃の私は毎日毎日朝から夜遅くまで追い掛けられる様に仕事をして。

 仕事が終わればパンパンに浮腫み重たくなった足を引き摺る様にしてマンションへ帰ればお部屋は当然の如く真っ暗闇。


 あはは、それはそうだ。

 だってここは私一人のお城やもん。

 煩いお母さんやお父さんもいない私だけが住む、ちょっと狭いけれども私だけの立派なお城って賃貸だけれどね。


 疲れた身体へ鞭を打ち、何とか鍵を開け玄関にあるパネルを押せば照明が点灯するとそれまで真っ暗闇だった空間はぱあああと色を取り戻していく。

 何時もはそれで『ああやっと家に帰ってきたわぁ』ってな具合にホッとするだけで特に何も思わないし考えない。

 でもこんな雪のチラつく底冷えの、極寒な夜にはふと何気に思ってしまうんよね。


 一人きりじゃあ少し……う゛ぅ゛〰〰〰〰めっちゃ寂しいけれどもである。


 そこは絶対に声に出す事もなければ言葉として発しはしない。

 だってリアルで声に出し叫んだとしても恋人がうー〇イーツじゃああるまいし、お気楽に自分の好みな男性をチョイスされれば宅配されたりってめっちゃ怖いんやけれどね!!


 まあそんなお花畑な夢を見る等現実主義である私には土台無理な事なのだろう。

 そうそうこの世の中男がいなくとも別に死にはしないのだ。


 勿論恋をしなくとも、うん結婚をしなくてもだ。


 真面目に働いてしっかりと貯金をすれば、男よりも信用の出来る悠々自適で高額老人ホームの優雅な老後がひらひらと手を振って待っている。

 

 そう、今はその優雅な生活を送る為の途中過程に過ぎない。

 だから余計な事を考えずまた立ち止まらず、深く夢を見る事も無く、ただ只管ひたすらに前を向いて直進あるのみ。


 途中下車なんて現実主義の私らしくない。

 まあ時にはこんな風に寂しいと感じる事もあるでしょう。

 ただそんな時には温かいお風呂でまったりと過ごした後にコンビニおでんとガンガンに冷えたビールがあればそれで私の気分は爆上がり。

 お手軽と言われ様ともそれだけで私は気分転換が出来るのよ。




 ぷっはああああぁぁぁからの……くぅぅぅぅぅぅぅぅ!!



「さいっこうやね。疲れた身体にアルコールがじわじわと毛細血管まで沁みていくぅ。ついでにこの大根と白滝も外せないよねぇ。はふはふ」


 それから暖房の利いた暖かい部屋で、少々草臥れてはいるけれどもだ。

 気慣れたTシャツに緩々ジャージを履いて胡坐を掻きながらのおでんの次は柿ピーやするめをしゃぶっている。


 最早その姿は干物ではなくだ。

 でもそんなもんはどうでもいい。


 ビールの摘まみである熱々おでんをはふはふと咀嚼しながら先日友人より渡された?


 いやいやあれは半ば強引だったよな。

 そしてその中身はと言えばとある乙女ゲームだった。



 最初はあほらし――――な~んて思い部屋の隅へ何日も放置していたんだけどねぇ。

 

 ゲームなんてテト〇〇くらいしかした事ないからちょっとだけ。


 とは言えタダで貰ったんだし……と言う訳とほろ酔い気分もあり何気に興味を持ってしまった。


 そうして気づけば短時間だけれどこれが毎日の日課になりつつある……ってほんま、何気に怖いよね。

 今日も寝るまでの小一時間ビール片手にほろ酔い気分でゲームの続きをして……。




 翌晩私は何時も通りに仕事帰りの疲れ切った身体のまま何とか終電へ間に合えば、倒れ込む様に空いている座席へと座ったのとそれはほぼ同時だったのだ。


 動き始めた電車が凄まじいくも大きな衝撃音とその力で以って私の視界が一気にぐにゃりと歪みそうして身体が一瞬無重力の様にふわりと軽く――――っ⁉

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